「未知を、価値に。」通信

スカパーJSAT

赤い色の海がある?
宇宙から撮影した海の色のクレヨン誕生秘話

奄美大島の笠利湾やオーストラリアのグレートバリアリーフ、グリーンランドのイルリサットアイスフィヨルド、台湾の陰陽海など、世界12か所の海の色を集めた「海のクレヨン」。これらは、宇宙から撮影した衛星画像をもとに、実際の海の色を抽出してつくられています。「Satellite Crayon Project」第一弾として今年1月に発売され、大きな反響を呼んだこのクレヨンが誕生した経緯、スカパーJSATがそこに込めた思いを紹介します。

「海は青色だけじゃない」衛星写真で知った驚きを子どもたちに

スカパーJSATでは、人工衛星から撮影された地球の写真を活用し、データの観測や監視、防災予測など、さまざまなビジネスを行っています。「海のクレヨン」の企画をした清野正一郎は、衛星写真を見てあることに気づきました。

「偶然、赤い海を見つけました。赤い海があるなら他の色の海もあるんじゃないか。そう思って見てみると、黄色や緑、黒っぽい海もある。海は青だとばかり思っていたので、これはすごい!と価値観が変わりました」

衛星写真から地球の海の色の豊かさを知った清野は、これを多くの人に伝えたいと思いました。

「きっと、子どもたちに伝えたらびっくりするだろうと思って、まずは4歳の息子に『海の色って何色だと思う?』と聞いてみたんです。そしたら『青に決まってるじゃん』って。すでに子どもにもそんな固定観念ができあがっていることに驚きつつ、それを少しでも崩せたらいいな、海には色んな色があることを知ってもらいたいなと、思いました」

とはいえ、ただ言葉で「海には青以外の色もあるんだよ」と伝えても満足には伝わらない。ならば体験を通して、地球の海の色の豊かさを実感してもらおう。そこで思いついたのが、衛星写真で目にした海の色でクレヨンをつくることでした。

「クレヨンはおそらくほとんどの子どもたちが生まれてはじめて色を認識して遊ぶ画材ですし、地球の色で遊ぶことによって、少しでも地球というものを意識してもらえるんじゃないかと思ったんです」

こうして「Satellite Crayon Project」はスタートしました。

クレヨンは宇宙を題材にしたひとつのコンテンツ

スカパーJSATが、なぜクレヨン?という疑問を抱く人もいるかもしれません。

「スカパーJSATは、衛星を利用した通信などを行う宇宙事業や、衛星放送等のメディア事業など、宇宙から価値を届けてきた会社です。言い換えれば、地球だけではなく宇宙もフィールドにしている“宇宙目線”を持っている会社ともいえます。そういう意味では、宇宙から見た色を再現したクレヨンもスカパーJSATが届けてみても良いのではないかと思いました」

もともとメディア事業部門に属し、番組制作なども手掛け、宇宙からエンターテインメントを届けるプロジェクトを立ち上げたこともある清野は、さらに続けます。

「よく宇宙飛行士の方が、宇宙に行ったことで『価値観が変わった』という話をされますよね。もちろん同じってわけにはいかないかもしれませんが、宇宙目線を持つ僕らも、宇宙との距離感を変え、人々の価値観を変えるために何かできるのではないか。そんなコンテンツがつくれたら良いな、とずっと思っていました。この『海のクレヨン』は、ただのプロダクトではなく、人の価値観を少しだけでも変えられるかもしれない、という想いを込めたスカパーJSATならではの、ひとつのコンテンツだと思っています。」

地球に興味をもつことが、SDGsの第一歩目

「海のクレヨン」をつくる。そのために、まず過去1年分の大量の衛星写真を見るところから始め、最終的に12の海を選んでいきました。

「場所の選定には、色の美しさだけでなく、その場所の持つストーリーにも注目しました。そこには、地球ってすごい!面白い!と感じて欲しい、という思いがあったからです。『地球を守ろう』という言葉をよく耳にしますが、地球を守ろうと思うまでには、何段階かあると思うんです」

「なぜ?」は知りたいのはじまり、「知りたい」は好きのはじまり、「好き」は守りたいのはじまり。だからこの「海のクレヨン」をきっかけに、もっと地球に興味をもってもらいたいと考えています。

「小さな子どもたちには『こんな色の海もあるんだね』ということだけでも知ってもらい、少し大きくなったとき、『なぜこんな色になっているんだろう?』と地球の神秘について考えるようになる。親世代であれば、環境問題が入り口になるかもしれない。地球に興味を持つことが、SDGsの第一歩目なのではないかと思います。このクレヨンを使う世代に応じて、地球への関心が段階的に深まっていけばいいと思っています」

既存のクレヨンや色鉛筆にない、実際の海の色を再現

「海のクレヨン」の12色は、世に出回っているクレヨンや色鉛筆にはあまり存在しない色です。クレヨン職人と試行錯誤を重ね、衛星写真の海の色を細部にわたるまで忠実に再現しました。
また、実際に「海のクレヨン」を手にした時、どのような体験になるのか。そのこともこだわった点です。

「パッケージを依頼する時、デザイナーさんにお願いしたのは、衛星写真から実際の海の色を抽出してつくったクレヨンだということが、体験としても感じてもらえるものにして欲しいということでした」

(写真 左/中央)表蓋に空いた穴からのぞく宝石のような12色。蓋を開けると、それらの色は衛星から撮った海の写真という仕掛けが施されている。
(写真 右)公式サイトへのQRコードを記載した中蓋。今回12の海のひとつに選ばれ、2050年には地球温暖化による海面上昇で沈むといわれているキリバス共和国には、売上の一部を寄付することが決まっている。

また、クレヨン自体に色名をつけていないことも特徴です。

「実際の海の色なので、既存の色名に無理やり当てはめることはしたくなかったんです。その代わり、色を抽出した場所の緯度・経度の数字を記しました。そうすることで、この数字はなんだろうと興味を持ったり、数字で検索して、その場所を調べるきっかけになったりしたらいいなと」

中蓋の裏にあるQRコードにアクセスすると、なぜこの海がこのような色をしているのかという解説や海が直面している課題なども読むことができます。さらに文章を読めない小さな子どもたちが耳で聴いて、ある程度理解できるように、音声ガイダンスによる解説も設けました。

音声ガイダンスを務めてくださった俳優の濱田岳さん。
過去にご一緒したドラマの現場で「Newton」を読んでいたのが印象的でオファーをしたところ、趣旨に賛同しこのプロジェクトに参加してくださいました。

宇宙をもっと身近に感じてもらう取り組みを

「海のクレヨン」が発売されると、大きな反響を呼び、ニュースやSNSでも話題になりました。また、クレヨンの1色にもなっている陰陽海がある台湾でも大きく紹介され、現地での販売を開始。日本でも斬新なアイデアとデザイン性が評価され、文房具を対象とする賞も受賞するなど、「海のクレヨン」は、期せずしてスカパーJSATという会社をより広く知ってもらうきっかけとなりました。

現在、「Satellite Crayon Project」の第二弾となるあらたな企画も、進行中です。

「これからの20年、人と宇宙の距離は劇的に近づき、宇宙に対する価値観や認識も大きく変わっていくでしょう。宇宙目線を持った子どもたちは、20年後にどんな未来を創り出すでしょうか。そのような時代に向けて、スカパーJSATは、これからも宇宙に興味を持ち、より身近に感じる人が増えるような取り組みや、事業も行っていきたいと思っています」

(2022年8月19日時点)