「未知を、価値に。」通信

スカパーJSAT

SFが現実に。なぜ“宇宙視点”が地球課題を解決するのか

宇宙空間に通信インフラを整備し、地球を丸ごとデータ化する。その結果、フィジカル空間とサイバー空間を高度に融合させ、地球上の課題を解決する──。

突飛なSFのストーリーに聞こえるかもしれない。だがこれは、多くの人が想像するよりもずっと早く訪れる、未来の通信のあり方だ。

2022年7月、スカパーJSATとNTTは合弁会社Space Compassを設立し、宇宙統合コンピューティング・ネットワーク事業を推進すると発表した。

これは、NTTのネットワーク/コンピューティングインフラとスカパーJSATの宇宙アセット・事業を統合し、静止軌道衛星、低軌道衛星、HAPS(高高度プラットフォーム)など多層的な空間インフラを光無線通信で結ぶもの。

地球上のネットワークの超カバレッジを実現すると共に、高度なデータ処理を行うコンピューティング基盤を空に持ち上げる計画だ。

すでにサービス化や実証実験が始まっており、2030年に向けて基盤を整えていく段階にあるという。

なぜ、宇宙空間から取得するデータが重要なのか。地球上の私たちの生活はどう変わるのか。スカパーJSAT宇宙事業部門経営企画部経営戦略チーム長の笹尾祥吾氏に、そのビジョンと現在地を聞いた。

Society5.0のインフラを宇宙につくる

──スカパーJSATが掲げる、宇宙事業の壮大な構想に驚きました。「なぜスカパーが?」と感じる読者も多いと思います。

笹尾 そうですよね。「スカパー!」と聞くと多くの方は当社の衛星放送サービスを思い浮かべると思います。そのメディア事業も、スカパーJSATの事業領域の一つです。

一方で、私たちは1989年に日本初の民間通信衛星を打ち上げ、人工衛星を使った通信事業を30年にわたって展開してきました。

現在、静止軌道に16機の人工衛星を保有しており、アジアでは最大規模の衛星オペレーターなんです。

2018年にスペースインテリジェンス開発部(現:事業部)を立ち上げ、インフラやオペレーション事業だけでなく、衛星から得られる様々なデータを活用するアプリケーション開発にも乗り出しました。

この数十年の間に情報通信技術は急速に普及し、社会や暮らしを変えてきました。ただ、世界を見渡すとまだインターネットの恩恵を受けられていない地域がたくさんあります。

それに、少子高齢化が進む日本の社会や産業を維持するには、IoTやAIを活用し、解析結果をフィジカル領域にフィードバックし、自動化・効率化による省力・高生産を実現していかないといけない。

私たちは、人工衛星を活用することで世界中の通信格差を解消し、テクノロジーによる社会や環境の課題解決に貢献できると考えています。

──地球上の問題を解決するのに、なぜわざわざ宇宙に通信インフラを構築するのでしょうか。

地上の通信ネットワークだけでは対応できない課題は、実はたくさんあるんです。

その一つが、通信エリアの地域格差。世界には今も、インターネットにつながらない環境にいる人たちが30億人から40億人います。

日本でも基地局が整備されていない山間部や過疎地などでは、やはりデータ通信ができないエリアが残っている。

その問題を、宇宙からなら解決できます。その理由は、通信衛星の広域性。地上に基地局を一つ増やしても通信エリアは部分的にしか広がりませんが、高度3万6000kmにある静止軌道衛星なら1機で地球上の3分の1をカバーできるからです。

この広域性は、これから様々なモビリティや機械がインターネットに接続するSociety 5.0の時代に、社会をスマート化していくためにも必要なんです。

ネットワークに「高さ」を持たせる

──Society 5.0は、地上の社会変革ですよね?

ええ。これからの時代はIoT(Internet of Things)化がますます進み、人口より多い数のコンピュータがネットワークに接続します。

AIによって自律的に動き、様々なセンサで現実空間からデータを取得する機械も増えるでしょう。自動運転のモビリティや産業ロボットは、その最たる例です。

内閣府「Society5.0」を基に作成

その先にあるのは、フィジカルな現実空間とサイバー空間が融合する世界です。

機械がモニタリングしたデータをネットワークでつなぎ、AIが分析やシミュレーションを行って、解析結果を現実世界へフィードバックする。

いわば、人とコンピュータが協働するため、仮想空間に地球を丸ごとコピーしてリアルタイムで同期させるような社会に向かっているんです。

すでにスカパーJSATでは、衛星から観測した地上のデータを解析するサービス(Spatio-i)を提供しています。

──衛星から取れるデータにはどんなものがあるんですか?

もっとも一般的なのは、地球上の陸域を常時撮影している画像データです。

たとえば、近年は世界中で深刻な自然災害が増えていますよね。

地震や洪水が発生したときに被災地の画像を解析すれば、被害の全体像を把握して、必要な場所にいち早く救助や支援を送ることができます。

スカパーJSATが提供する衛星画像サービスのイメージ。宇宙から撮影した光学衛星画像を活用することで、浸水被害の規模を網羅的に把握することが可能だ。

それに加えて、マイクロ波レーダーを使うSAR衛星の場合は、曇天時や夜間でも地表の状態をモニタリングできます。

このようなデータを蓄積し、AIに学習させることで、何か異変が起こった場合にアラートを出して、土砂災害や地盤沈下を予測することもできるようになります。

ほかにも、衛星データから農作物の生育状況を分析して収穫時期を判断したり、病気が発生したときにいち早く検知して対策したり。

これまでは人が目視でチェックしていた道路や線路などの交通インフラも、倒木や崩落があればその場所を特定して人を向かわせることができます。

気温や大気の状態、温室効果ガスなどの環境モニタリングも、人工衛星のデータを活用しやすい領域です。こういったデータを重ね合わせ、統合的に分析することで見えてくる変化もあるでしょう。

たとえば低軌道で取得した画像で全体像の把握・重要場所の特定を行い、より詳細な情報はドローンで取得するなど、その間をバーティカル(縦方向)なネットワークで結び、宇宙の目と地上の目を様々な形で組み合わせることにより、データはより複層的に、密になっていきます。

大気圏外の通信に、光ケーブルは必要ない

──なぜ縦方向にネットワークを広げる必要があるのでしょうか?

異なる軌道の衛星には、異なる特長があります。だからこそ、ユースケースに合わせて適切なインフラを提供し、組み合わせる必要があるのです。

たとえば静止軌道衛星は、常に同じ位置に衛星が止まっているように見えるため、伝搬路を確保しやすく、1機で通信回線を広範囲に提供することができるというメリットがあります。

ですが地上との距離が遠いため、250ミリ秒(1/4秒)くらいの通信遅延が生じてしまいます。

一方で、地上400〜1000kmを周回する低軌道衛星は、地上との距離が近いため、通信端末の小型化や低遅延の回線提供が可能です。

ですが、低軌道衛星が地球を一周するには約100分かかるので、1機だけでは日本の上空を通る数分~十数分ほど(軌道や受信場所によって前後)しか地上と通信できません。ですから、非常に多くの機数を軌道上に投入する必要があります。

また低軌道衛星は、高解像度データの取得が可能となるため地球観測分野でも広く活用されていますが、衛星が地球を周回するのに時間がかかるため、取得したデータを送信できるタイミングが数時間後になってしまうケースもあり、災害時の状況把握などに活用する際には課題となります。

こういった背景から、それぞれの軌道の衛星の特性を活かし、組み合わせて連携させていくことがとても重要なのです。

そこでSpace Compassは、低軌道衛星で収集した高解像度データを高速大容量の光通信で静止軌道衛星へ送り、地上へ伝送する「光データリレーサービス」を2024年度に開始します。

このサービスでは、低軌道衛星で取得したデータを、可視範囲にいる静止軌道衛星へ転送。受け取ったデータを、地上と常に通信が確立されている静止軌道衛星から即時に地上へ伝送できます。

また、通信回線に光技術を取り入れることで、大容量データ伝送を実現します。

このように低軌道と静止軌道の特長をそれぞれ生かし、組み合せることにより、高解像度データを準リアルタイムで地上にデータを届けられるようになります。

さらに、2025年度からは高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)を活用した通信サービスを国内で開始する計画です。

これは無線基地局装置を搭載し、高度20〜50kmの成層圏を周回する無人飛行機のようなもので、衛星よりさらに高解像度のセンシングが行えるほか、地上間の通信を中継する基地局にもなります。

こうして静止軌道・低軌道・成層圏でマルチレイヤの通信インフラを構築すると、地球上のどこにいてもネットワークにつながる環境ができます。

目指しているのは、人が意識しなくても、インフラ側が最適な通信に接続してくれる世界観。

都心にいるときは近くにある地上の基地局にアクセスし、地方で山登りをしているときはHAPSにつながり、飛行機に乗っているときは静止軌道衛星を経由する。

もちろん人だけでなく、いろいろな自律ロボットやモビリティ、ドローンなどもそのネットワークに接続します。そのような未来には、分散コンピューティングを担うコンピューティング処理基盤の一部が雲の上に置かれているはずです。

2030年、データは空から降りてくる

──これらの事業を統合させて、スカパーJSATやSpace Compassは、究極的にどんな未来を描いているのでしょうか?

「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」と私たちが呼んでいる、新しいICTインフラを構築することが、我々の最終的なビジョンです。

まずはその土台作りとして、ここまでご説明してきたHAPS、静止軌道衛星、低軌道衛星を統合し、それらと地上を光通信ネットワークで結ぶ。

そうすることで、宇宙空間で高速かつ大量にデータを伝送することを可能にしていきます。

宇宙コンピューティング・ネットワーク構想を解説した動画はこちら

さらにこのビジョンの実現に向けて、もう一点欠かせない要素があります。それが、分散コンピューティングによって、宇宙空間でデータ処理を行うことです。

これから先、衛星からのセンシングによって得られるデータは膨大な量になります。いくら通信インフラが整ったとしても、衛星で取得したすべてのデータをそのまま地球に伝送することはできません。

そのとき必要になるのが、宇宙空間でデータを解析し、必要なデータのみを地上に送ること。

たとえば衛星から地上を撮影しても、雲がかかっている場所の写真は使い物になりません。その写真を削除するだけでも通信や計算の負荷を大きく減らせます。

災害予知のために高解像度の写真を撮ったとしても、衛星側のコンピュータで解析して異常を検知した情報だけを地上に送れば、より小さい容量、かつ活用しやすい形で地球にデータを送れるというわけです。

──なるほど。それぞれの衛星がエッジコンピューティングを行うわけですね。

とはいえ、今はまだ宇宙コンピューティングの創成期で、通信衛星のスペックも発展途上です。

現在宇宙に浮かぶ人工衛星に搭載されたコンピュータの多くは、実はひと世代前のiPhoneと同程度の処理能力しかありません。

人工衛星に搭載するコンピュータは、衛星を宇宙へ飛ばす際の振動対策、熱真空対策、放射線対策など宇宙環境独特の対策が必要となります。

たとえば放射線によるソフトエラー対策として、二重三重に冗長性を持たせるアルゴリズムを使うことがあります。

それにハードウェアの信頼性も求められるため、地上で使われている最先端のコンピューティングシステムを使うわけにもいかず、多くの人工衛星は数世代前の技術で構成されているんです。

それでも、コンピュータ技術はものすごいスピードで進化を続けている。宇宙空間の通信インフラが整い、地上で様々なデータが活用されるようになれば、これから打ち上げられる衛星にはより高度なテクノロジーが搭載されるでしょう。

我々も今後、高度なコンピューティング機能を搭載した衛星を順次投入し、本格的な宇宙データセンタを稼働させる見通しです。

そして2030年代には、「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」を形にしたい。宇宙事業におけるスカパーJSATのノウハウを活かし、多くのパートナーと力を合わせて市場を開拓すれば、それが実現できると確信しています。

制作:NewsPicks Brand Design
執筆:塚田有香
撮影:後藤渉
デザイン:小谷玖実
編集:宇野浩志、金井明日香

※このコンテンツは、スカパーJSATのスポンサードによってNewsPicks Brand Designが制作し、NewsPicks上で公開した記事を転載しています。
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(2023年1月20日時点)