「未知を、価値に。」通信

スカパーJSAT

持続可能な
宇宙環境を守るために、
レーザーで
宇宙ごみを除去

SDGsの認知が広がり、環境問題に対する意識が世界的に高まっています。一方、あまり知られていないのが宇宙の環境問題です。実は今、宇宙空間のごみが増え続け、放置できない状態になっているのです。スカパーJSATではこの問題を解決し、持続可能な宇宙環境を守るために、世界初のレーザーで宇宙ごみを除去する衛星の設計・開発に取り組んでいます。

世界的な宇宙ビジネスの拡大とともに、増え続ける宇宙ごみ

天気予報や災害情報、GPSによる位置情報など、私たちの便利で安全な暮らしに人工衛星はもはや欠かすことができません。1957年のスプートニクの打ち上げ以来、現在まで宇宙空間に打ち上げられてきた衛星やロケットは11,000機以上(※2021年9月末時点、出典:国際連合宇宙局)。年々、その数は増えています。

その結果、今、ある問題が生じています。それが宇宙ごみです。現在、宇宙空間には役目を終えたり、故障してしまった人工衛星やロケット、その部品や破片などが増え続けています。地球の周辺の軌道には直径10cm以上の宇宙ごみが約3万6000個、直径1mm以上のものまで含めると、なんと3億個以上もあると言われています(※2021年9月末時点、出典:The European Space Agency)。

また近年、全世界を対象に地球観測やインターネット事業などを行うべく、数百から数万という数の衛星を打ち上げるコンステレーションと呼ばれる計画が、世界各国で進んでいます。そのため今後10年で打ち上げられる衛星は、過去60年で人類が打ち上げてきた衛星の数を大幅に上回ると予測されています。とくに地表から高度千数百kmの低軌道では衛星の混雑化が加速し、人工衛星と宇宙ごみが衝突するリスクが高まると懸念されているのです。

宇宙空間には大量のごみがあり、年々増え続けている。

宇宙の持続的利用のために、宇宙ごみの除去が世界的な課題に

低軌道の宇宙ごみは秒速約7~8kmという超高速で宇宙空間を飛び交っています。小さなものでも衛星と衝突すれば、大きな被害をもたらします。それによって衛星が破壊されてしまえば、天気予報や災害情報、通信などのサービスが突然、途絶えてしまう可能性があります。何より宇宙ごみが増えていくと、持続可能な宇宙利用が難しくなっていきます。そこで今、世界各国の機関や企業で、宇宙ごみの除去技術の開発が進められているのです。

宇宙ごみは非常に高速で移動しているため、1mm程度の宇宙ごみでも、衝突してしまうと、衛星ミッションが継続できなくなるほどの大きな被害をもたらす可能性がある。

これは、約30年にわたって宇宙ビジネスを進めてきたスカパーJSATにとっても、重要な課題です。私たちはこれまでも、運用を終えた衛星を国際ガイドラインに準拠して、適切に廃棄し、常にきれいで安全な宇宙環境の維持に努めてきました。さらに宇宙ごみの問題についても何か貢献できないか。そのような思いから、2018年に開始した次世代ビジネスを検討する社内スタートアップ制度のなかで、宇宙ごみを除去する技術や研究の検討を進めてきました。

産学連携で宇宙のSDGsに貢献する

調査の結果、私たちが宇宙ごみを除去する技術として活用することにしたのが、レーザーです。物体にレーザーを当てるとプラズマ化、気化し、表面から物質が放出されます。そうした物質の放出を推進力として利用して、宇宙ごみの軌道を変更。大気圏へ落とし、消滅させるのです。

遠隔から極微量のレーザーを照射することで、制御不能となった衛星などの宇宙ごみを大気圏へとゆっくり動かすことができる。

レーザー方式の利点は3つあります。一つは安全であること。宇宙ごみに接触する必要がないため、安全な距離を維持した状態でレーザーを当てて、宇宙ごみを動かすことが可能です。2つ目は、回転している宇宙ごみに対応できること。接触が難しい回転している宇宙ごみにタイミング良くレーザーを当てることで、回転を制御することができます。3つ目は、経済的であること。宇宙ごみを移動させるための燃料が宇宙ごみ自身であることから、宇宙ごみを移動するための燃料が不要です。

レーザー衛星の設計・開発は、多くの共同開発者と協力して進めています。衛星の主要なミッション機器であるレーザーアブレーションサブシステムは、理化学研究所と共同開発。レーザー照射方法は名古屋大学、ターゲット物体の回転運動については九州大学と共同研究しています。まさに日本の宇宙開発・研究に携わる産学が連携した、世界初の挑戦です。

2026年開始を目指すこの事業の主な顧客は、コンステレーション事業者や政府機関、宇宙機関などを想定しています。膨大な数の衛星を管理するコンステレーション事業者には宇宙ごみ除去が不可欠であり、将来的には宇宙ごみの除去は一般ごみ同様、公的機関が担うことになる可能性があるからです。

宇宙ごみは、温室効果ガスや海洋プラスチックと同じ環境問題です。私たちはビジネスを通じてこの課題を解決し、持続可能な宇宙環境の維持、宇宙のSDGsに貢献していきます。

(2021年10月25日時点)