放送事業を軸にFTTH、配信、
BtoB事業の拡大・育成を図り
事業の多角化・収益の多様化を推進します。
取締役
(スカパーJSAT株式会社 メディア事業部門長)
小川 正人
事業環境
メディア事業を取り巻く環境はたいへん厳しいと認識しています。コンテンツニーズや視聴形態が多様化する中、定額制又は無料のインターネット動画配信サービス(OTT)事業者との競争がますます熾烈になっています。加えて、2020年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、シーズン商品として安定収益の見込まれるスポーツイベントの開幕遅延や、人気アーティストによる大型音楽イベントの開催中止が相次ぎました。しかし一方で、コロナ禍での外出制限により、いわゆる巣ごもり消費として家庭での放送・配信コンテンツの需要が高まっています。また、家庭内Wi-Fi環境のニーズ拡大に伴いFTTH(光回線)を契約する世帯が増え、光回線を経由したFTTH(光回線)に対する需要も伸びています。
2020年度の業績レビュー
OTT事業者との競争激化等の影響で加入者純減が継続したことにより、2020年度のメディア事業の営業収益は、視聴料収入が39億円減少し、前年度比60億円減少の916億円となりました。しかしながら、営業費用はこれを上回る90億円の減少となり、営業利益は29億円増加の60億円で着地しました。税引後のセグメント利益は、前年度に税金費用が大幅に減る特殊要因があり、その剥落により1.5億円減少の44億円となりました。
コロナ禍の影響で例年にも増して厳しい事業環境でしたが、放送事業において、テレビ1台分の料金で3台まで追加料金なしで50チャンネルが見放題となる「スカパー!
基本プラン」は、お客様の満足度が高く、2021年3月31日現在で62.9万件(前年度末比124%)に伸長しました。FTTH事業については2020年11月に、東北エリアでケーブルテレビ事業者と放送設備を共有して事業効率化を図りつつサービス提供エリアの拡大を実現する協業モデルを開始し、2020年度末現在での接続世帯数は244万世帯に達しました。
さらに、自主制作番組の編成見直し、カスタマーセンターや放送センターの運営効率化等、従来からの事業構造改革の効果が現れてきたことに加え、コロナ禍の影響で販促関連費用等が抑制されたことも営業利益の大幅増につながりました。
2021年度の業績見通し
2021年度のメディア事業の営業収益は、前年度比196億円減少の720億円を想定しています。このうち、収益の減少200億円は収益認識会計基準等の適用によるものです。営業利益は、将来の成長に向けた先行投資等により28億円減少の32億円、セグメント利益は19億円減少の25億円の見通しです。累計加入件数は8.7万件減少すると計画するものの300万件台維持に努めます。
こうした中で、放送事業においては、まずは好評の「スカパー!基本プラン」の提供による満足度向上に加え、2020年より実施している「ファン・マーケティング」に注力します。コンテンツをお届けするだけでなく、イベント開催、グッズ販売、SNSを活用したコミュニケーション等、ファンに寄り添い、より満足いただけるような新たな体験を提供し、お客様との長期的な関係構築を目指してまいります。
加えて、将来の成長に向けた配信事業の積極的な費用投入を推進いたします。下期には「スカパー!
オンデマンド」をリニューアル予定です。
また、既存アセットを活用したBtoB事業に本格進出します。国内外の企業の動画配信ニーズに応える「メディアHUBクラウド」を開始し、(株)PLAYと協業し、映像配信のハブ機能として、当社の放送センター等を有効活用し、手軽に低コストで信頼性の高い配信手段を提供します。2021年度は、事業の多角化・収益の多様化を図るための地固めの年にしたいと考えています。
事業ビジョンと事業戦略
2020年から5Gによる高速大容量通信サービスが開始され、国内のOTT市場はさらなる拡大が予測されます。こうした中、当社は、100チャンネル以上で多種多様な視聴ニーズに対応するスカパー!の特長を活かし、コアなファンに一層寄り添った価値提供を推進します。地上波・BSならびにスカパー!をお楽しみいただけるFTTH事業は、テレビ再送信サービスの提供可能世帯数が33都道府県・約3,200万世帯となっており、今後もさらなるエリア拡大、着実な成長を見込んでおります。FTTH経由での有料多チャンネルサービスの加入獲得に引き続き注力するとともに、通信インフラが整備されている利点を活かした新たなサービス提供にも取り組んでまいります。
放送事業において加入者減・収益減に歯止めをかけつつコスト構造改革を継続、またFTTH事業の拡大を実現することで、収益基盤を確保してまいります。と同時に、事業の多角化も図ってまいります。従来の映像コンテンツを中心としたサービスだけでなくモノ、コトも含めた事業領域の拡大により、世代を超えて、生活スタイルを支えるブランドとして発展させる必要があると考えています。
そのための具体策として、まずは当社のOTTサービスを強化します。これまでは、スカパー!の放送をインターネット上でも視聴できるというコンセプトで提供してきましたが、視聴形態の変化と好きな時間に視聴できる利便性から配信市場が急拡大しており、サービスを刷新して競合するOTT事業者への競争力を高めていきます。将来的には、放送と配信が融合した、テレビとスマホ向けサービスをシームレスに利用出来る使い勝手のよい映像プラットフォームに進化させることを目指します。
BtoB市場の開拓にも取り組みます。「メディアHUBクラウド」サービスを皮切りに、当社の放送・配信アセットや多チャンネル放送運用実績を活かして、コンテンツプロバイダー、サービスプロバイダーはもちろんのこと、一般企業へのアプローチも視野に入れたメディアソリューション事業を推進し、新たな収益の柱の一つに育ててまいります。
多様な価値を提供し生活の豊かさ向上に貢献
メディア事業は、多様性を認める社会の実現に向けて、今後もスポーツやアニメ、国内外の映画やドラマ、趣味、ニュース等の多ジャンルのコンテンツを提供し、人々の生活を豊かにする存在として、スカパー!ブランドのロイヤリティを高めていきます。加えて、多様な映像ソースを分岐する技術ノウハウやネット配信も可能な設備、および多チャンネル契約とテレビ再送信サービスを合わせて約550万件の顧客基盤を持つ強みを活かし、事業領域の拡大・収益の多様化を本格的に推進します。
ファン・マーケティングの推進
明石 静
スカパーJSAT株式会社
メディア事業部門 メディア事業本部
エンタメジャンル事業部長
私たちは、お客様=ファンと考えています。「スカパー! はファンの気持ちをよくわかっている」と思っていただき、スカパー!でエンターテインメントを楽しむ価値を感じていただくための活動がファン・マーケティングであると考えています。そのためにはさまざまなジャンルのファンの方々が何を大切にして、どこに価値を感じているかを私たち自身が理解することから始め、お客様ひとりひとりの嗜好や視聴ニーズに応えるためのさまざまな取り組みにつなげています。
具体事例として、反響の大きかった「ソロフェス!」についてご紹介します。
「ソロフェス!」は、ハロー!プロジェクトのメンバー全員がソロ歌唱するという番組で、ファン投票で選ばれた優勝者の冠番組を作るという特典を設けた企画でした。この企画はハロプロファン100人へのアンケートから浮かび上がったニーズを具現化したもので、ファンが参加し一緒に作りあげていく空気感が生まれ、大変好評でした。
今後は演歌や時代劇などを楽しんでいらっしゃるエルダー層へのアプローチを強化していくなど、スカパー!
だからこそできるエンターテインメントを提供し続け、お客様との深く、長い関係を築いていきたいと考えています。