事業概況[宇宙事業]

通信ビジネスの成長マーケットを
取り込みながら、
静止衛星での通信サービスにとどまらない
新領域の開拓を推進していきます。

取締役

(スカパーJSAT株式会社 宇宙事業部門長)
福岡 徹

事業環境

主力の静止軌道(GEO)における衛星通信サービスは、災害対策など官公庁を中心とした国内での安定的かつ強固な需要に支えられています。また中長期的に、船舶・航空機等の移動体向け衛星通信や携帯電話基地局向けバックホール回線などの需要が拡大トレンドにあります。しかしながら、足元では新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、航空会社の運休・減便が世界中で相次ぎ、成長の牽引役とみなしていた航空機内インターネット接続用衛星回線の需要が一時的に落ち込んでいます。一方、当社は日本のみならず、アジア全域・オセアニア・ロシア・中東・ハワイ・北米を事業領域としていますが、海外市場では、高速・大容量で、帯域当たりの単価の低廉なハイスループット衛星(HTS)の普及に伴い、グローバル衛星オペレータとの顧客獲得競争および価格競争が激しくなっています。

close

2020年度の業績レビュー

2020年度の宇宙事業の業績は、営業収益が前年度比54億円増加の589億円、営業利益は9億円増の138億円、税引後のセグメント利益は14億円増の94億円となりました。
コロナ禍による航空機向けインターネット接続用回線の落ち込みを当初厳しく見積もっていましたが、結果としては影響を11億円の収益減にとどめることができました。一方で、JCSAT-17が(株)NTTドコモとの長期契約に基づくサービスを開始したことで、年間を通じて安定的に収益に貢献しました。また、インテルサット社との共同衛星でHTSでもあるHorizons 3eが、2019年2月のサービス開始以降、アジア・太平洋地域を中心に順調に新規顧客を獲得し、こちらも増収に寄与しました。その結果、宇宙事業全体としては、当初計画を大きく上回る利益を創出することができました。
さらに海外市場での事業拡大と競争力強化を目的として、2020年1月よりサービスを開始した当社2機目のHTSであるJCSAT-1Cの営業活動も強化しており、現在インドネシアにおいて新規の大口契約を獲得しています。

2021年度の業績見通し

宇宙事業の営業収益は前年度比11億円増の600億円、営業利益が17億円増の155億円、セグメント利益が16億円増の110億円を見込んでいます。2021年度の収益拡大のドライバーとなるのは、大容量通信の可能なHorizons 3eとJCSAT-1Cの2つのHTSです。これらは、アジア・太平洋を中心とする成長市場での衛星回線需要、とりわけ航空機・船舶などの移動体向け衛星通信の分野で中長期的に利用拡大が期待できます。JCSAT-1Cは、インドネシア顧客との成約に次いで、ロシア・極東エリアでも新規契約の獲得を目指しています。一方、衛星通信サービス以外でも、衛星で取得した光学画像、衛星合成開口レーダー画像、位置情報など、さまざまな地理空間情報でソリューションを提供するスペースインテリジェンス事業を推進するとともに、異業種パートナーとの積極的なコラボレーションにより新事業領域を積極的に開拓してまいります。

事業ビジョンと事業戦略

中期的な視点で見ると、宇宙事業は大きなターニングポイントを迎えています。まず、当社が30年以上の実績を有する静止軌道衛星を用いた通信サービスは、グローバル市場での成長が見込まれるものの、他の衛星オペレータとの顧客獲得競争はますます激しさを増しています。また、“New Space”と言われるように、さまざまな企業が宇宙ビジネスに参入し、大規模な低軌道衛星コンステレーションが計画されています。
そのような事業環境下、当社は新たにSuperbird-9の打ち上げを2024年上期に計画しています。Superbird-9は、現在運用中のSuperbird-C2の後継機ですが、通信衛星としてはアジア初となるフルデジタル衛星で、市場や顧客のニーズに応じてカバーエリアや伝送容量等を軌道上で柔軟に変更することができる「フレキシブルペイロード」と呼ばれる最新の技術を搭載します。日本をはじめ東アジア諸国で大容量かつきわめて自由度の高い通信を行う能力を有しており、将来の多様な通信ニーズに対応できると期待されています。
また、基盤事業である衛星通信サービス以外にもイノベーションを積極的に進めており、当社宇宙事業のビジョンとして2つの方向性を打ち出しています。1つは、海洋・地上から深宇宙までをも“Space”と捉えた事業領域の拡大です。一例として、成層圏に通信装置を搭載した高高度無人機HAPSプロジェクトの実現を目指しています。
2つ目は、衛星データ・ソリューションを提供するスペースインテリジェンス事業の拡大です。すでに衛星データとAI分析を組み合わせたサービス「Spatio-i」を立ち上げ、Planet Labs Inc.の超小型地球観測衛星群で撮影した画像販売では、政府系機関や民間の農業・災害対策・遠隔監視用途等で契約を獲得しています。(株)ゼンリン、日本工営(株)と連携し、災害リスクを予測する「衛星防災情報サービス」も一部のお客様向けに提供を開始しました。さらに、スカパーJSAT(株)を含む6社にて「衛星データサービス企画(株)」も設立しました。
今後もパートナーとの協業をより一層広げ、こうした情報サービス等の新領域も全体の10%以上を占める収益基盤にしたいと考えています。加えて、政府の宇宙基本計画工程表でも民間企業の活用が明確にうたわれており、これに基づく事業への参入や、防衛分野を含む政府主導プロジェクトへの参画、政府系衛星の運用や観測・監視サービス等でもビジネスの拡大を図っていきます。

SDGsに通じるサービスを提供

衛星通信は災害時にも途絶することがないため、ライフライン企業や自治体に防災・危機管理の通信インフラとして導入され、暮らしの安心・安全を支えています。また、教育・医療分野でも活躍し、山間部や離島、船舶・航空機といった地上回線利用が困難なところで欠かせない存在となっています。さらに今後、持続可能な社会の実現に向け、ICTインフラ基盤として宇宙空間の活用が重要になっており、2021年5月には、日本電信電話(株)と業務提携し、「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」構想を公表しました。これは、GEO、LEO、HAPS間を高速の光中継で結び、宇宙空間で衛星画像のコンピュータ処理を迅速に行ったり、Beyond5Gを見据えて地上と宇宙をシームレスに接続し、あらゆる場所で大規模災害時にも確実につながる次世代通信基盤の構築を目指す構想です。
私たちのビジネスは通信の可能性を追求することで、サステナビリティを体現するものであり、これからの社会に求められるサステナブルなサービスを提供していきます。

新たな宇宙事業の開拓に向けて
~スペースインテリジェンス~

八木橋 宏之

スカパーJSAT株式会社
宇宙事業部門 新領域事業本部
スペースインテリジェンス事業部長

スペースインテリジェンス事業部は、情報分野にフォーカスした新規事業開発を専門的に行うことを主な目的に、多方面のパートナー企業と連携し活動しています。私たちが取り組む事業は、通信や観測でやり取りされるデータの利用拡張を目指すだけでなく、災害大国である日本の防災・減災対策やDX等の課題を解決する社会基盤になると考えています。
具体的な活動の一つは衛星データの提供です。世界には宇宙スタートアップが多数あり、優れた機能や性能を持つ衛星が地球を周回していますので、私たちは政府機関・自治体・民間企業・農業等のお客様が必要とするさまざまなデータをタイムリーかつ安価に提供し、既に多くのお客様にご利用いただいています。現在提供している衛星データは5社7種類(2021年7月時点)ですが、ポートフォリオをさらに拡充させていくとともに、自社の地上局ネットワークやNTT(株)との協業による光中継衛星等によりさらに進化した「新鮮」なデータをお届けできるよう努力して参ります。
ふたつめに、サービスブランド「Spatio-i」とともにお客様が必要とする情報を必要な形で提供するクラウド基盤(プラットフォーム)を構築しました。自社のエンジニアが開発した分析アルゴリズムを動かすだけでなく、Orbital Insight社等と連携し、お客様の課題に最適なソリューションを提供するため、日々進化するテクノロジーを積極的に活用・提供しています。Spatio-iプラットフォームは、日本工営(株)や(株)ゼンリンと進める衛星防災情報サービスや衛星データサービス企画(株)の事業にも活用し、さまざまなデータを統合・連携させたエコシステムを構築していきます。
当社は宇宙利用ビジネスでは老舗ですが、宇宙空間は広大で当社だけでできることは限られます。国内外のパートナーと宇宙をより身近にし、より豊かで安全な社会を実現するために邁進していきます。