「未知を、価値に。」通信

スカパーJSAT

宇宙産業の羅針盤をめざす。
新事業会社「Space Compass」が描く未来

近年、宇宙旅行が身近なものとなりつつあり、月や火星での人類の活動が広がるなか、宇宙時代のインフラ構築を目指して、国内外でさまざまな挑戦が行われています。2022年7月、NTTとスカパーJSATは、株式会社Space Compassを設立。宇宙空間を利用した画期的な取り組みを始めています。ここではその柱となる「宇宙データセンタ事業」と「宇宙RAN事業」について紹介します。

静止軌道衛星を経由することで、災害時のリアルタイム画像も入手可能に

宇宙データセンタ事業は、宇宙における大容量通信・コンピューティング基盤の構築を目指す取り組みです。その第一段として株式会社Space Compassでは、静止軌道衛星を経由して、宇宙で収集される膨大なデータを地上へ高速で伝送する「光データリレーサービス」の2024年度の実用化を目指しています。

昨今、各国で観測や通信を行うための低軌道衛星が数多く打ち上げられています。この低軌道衛星から地上局に直接データを送る既存のサービスは、衛星が地上局の上空にくるタイミングや短時間で通り過ぎることにより伝送に時間がかかる、通信容量が限られているなど、さまざまな制約がありました。
一方、静止軌道衛星は、赤道上空の高度約3万6000キロを地球の自転に合わせて回っており、地上からは一点に止まっているように見え、衛星と地上局が常に通信可能な状態を維持できます。

光データリレーサービスは、この静止軌道衛星を活用。低軌道衛星が収集した情報を、静止軌道衛星経由で光無線通信を用いることで、大容量かつ、準リアルタイムにデータの伝送を行おうというものです。このサービスが実現すれば、自然災害などが発生した際の迅速な対応に役立てることができるほか、宇宙空間を活用することにより、持続可能な社会の実現にも貢献します。
最先端のテクノロジーを要する静止軌道衛星と低軌道衛星間の光データリレーサービス。Space Compassは、今まさにそうした世界初ともいえる試みに挑戦しています。

離島やへき地、さらに上空や海上まで通信サービス提供を容易にする宇宙RAN

宇宙RAN事業は、静止軌道衛星や低軌道衛星、成層圏を飛ぶHAPS(高高度プラットフォーム)を活用し、Beyond5G時代における統合コミュニケーション基盤を提供する取り組みです。Space Compassでは、まずはHAPSを活用することで、地上のインフラに依存しない低遅延の通信サービスを2025年から国内で開始することを目指しています。

Space Compassが採用を予定しているHAPSは、翼に太陽光パネルを設置したグライダーのような形状の機体です。宇宙に比べて陸上に近い成層圏を飛ぶため、衛星通信のような通信遅延がありません。地上に帰還できるため、容易に修理や交換ができます。また、通信用途に合わせて装備や機能を変更したり、機数を段階的に増やすことでカバーエリアを広げることができます。

緊急時に必要な場所に移動することも可能なため、警察や消防、安全保障、災害時の活用などが期待できます。さらに船舶や空飛ぶ車やドローンを含む航空機への大容量通信や、離島やへき地などに通信サービスのエリアを拡大する際にも有効です。遠隔医療や自動運転、IoT等においても、状況に応じたシームレスな通信サービスを展開できるなど、幅広い分野に活かすことができます。

宇宙時代の社会、暮らしを支える情報通信インフラへ

ここまで紹介してきた宇宙データセンタ事業と宇宙RAN事業は、2021年にNTTとスカパーJSATが業務提携して発表した「宇宙統合コンピューティングネットワーク」の具体的な取り組みの最初の一歩です。

今後、二つの事業はさらに進歩していきます。宇宙データセンタ事業では、高度なコンピューティング機能を搭載した衛星を増やし、宇宙でデータを処理したうえで地上に伝送する取り組みも構想されています。

宇宙RAN事業では、HAPSを活用した画像センシングの提供も検討。さらに静止軌道衛星、低軌道衛星を追加、統合し、通信カバー範囲を広げていきます。将来的には宇宙データセンタ事業と宇宙RAN事業は融合し、「宇宙統合コンピューティングネットワーク」として、地上と融合した新時代の通信インフラとなる予定です。

Space Compassの社名は、スカパーJSATの「S(極)」とNTTの「N(極)」を合わせたコンパスをイメージして命名されました。そこには、「これから大航海時代を迎える宇宙産業の羅針盤のような存在になりたい」との思いが込められています。今後、人類が活動の場を宇宙空間に広げていくなか、「宇宙統合コンピューティングネットワーク」は、地上はもとより宇宙空間での人々の暮らしを支えるインフラにもなることでしょう。

(2022年8月19日時点)