「それぞれの未来ストーリー」は、Space for your Smileな未来に繋がる取り組みについて、当社グループの社員にインタビューするシリーズです。
近年の夏は日本全国各地で大雨や竜巻等の災害により、大きな被害が発生しています。誰もが気候変動による自然災害について影響を感じることが増えているのではないでしょうか。広域・同時多発的に発生する豪雨による土砂崩れや浸水は大きな社会問題となっています。
スカパーJSAT株式会社では、人工衛星から地球を撮影するデータやAI技術を用いることで、こうした自然災害による被害の発生範囲を速やかに高い精度で検知し防災・減災に活かす取り組みを行っています。
株式会社ゼンリン様、日本工営株式会社様とともに、斜面や盛土等の土構造物やインフラの経年的変状を、ミリメートル精度でモニタリングするサービスLIANA(リアーナ)をリリースしました。
LIANAを中心に、リモートセンシングの技術・サービスは、どのように環境や社会課題の解決に寄与しているのか、チームメンバーの皆さんにお話を伺いました。
―――今回インタビューしたメンバー
左から:外川さん、西澤さん、冨原さん、穴原さん、牧尾さん
- スカパーJSAT株式会社
宇宙事業部門
スペースインテリジェンス事業部 事業部第1チーム - 冨原 彩加さん
- スカパーJSAT株式会社
宇宙事業部門
スペースインテリジェンス事業部 事業部第2チーム - 穴原 琢摩さん(主任研究員)
- スカパーJSAT株式会社
宇宙事業部門
スペースインテリジェンス事業部 事業部第2チーム - 外川 健哉さん
- スカパーJSAT株式会社
宇宙事業部門
スペースインテリジェンス事業部 事業部第1チーム - 牧尾 貴宏さん
- スカパーJSAT株式会社
宇宙事業部門
スペースインテリジェンス事業部 事業部第2チーム - 西澤 駿人さん
マテリアリティのKPIに対する現在の取り組み
―――当社グループの重要課題テーマには「環境や社会に寄与するイノベーションの推進」があります。地球のはるか上空で遠く離れた宇宙から(リモート)、人工衛星を使用して地球を測定することで(センシング)、どのような取り組みを行っているのか紹介してください。
冨原さん:リモートセンシングを活用した取り組みは3つあります。1つ目が洪水被害の状況把握、2つ目が斜面インフラモニタリング(「LIANA」)、3つ目がため池モニタリングです。
具体的に言うと、リモートセンシングをするためには、センサーを搭載した低軌道衛星によって画像を取得します。その画像を我々が調達し、解析アルゴリズムを施して、ソリューションという形でお客様に提供しています。
この3点の中で、最も注力しているのが「LIANA」(リアーナ)です。「LIANA」は、衛星で斜面やインフラの変動リスクをモニタリングするサービスで、「Land-deformation and Infrastructure ANAlysis」の略です。Land-deformation が斜面の変動、Infrastructureはインフラ、例えば橋や道路といった建設施設で、ANAlysisが分析です。それら施設をSAR衛星(マイクロ波の反射を利用し、宇宙から地表を観測する人工衛星)の技術で解析して、お客様に情報を届けています。
「LIANA」は株式会社ゼンリン様と日本工営株式会社様と協業して行っています。株式会社ゼンリン様は地図データベース等を提供されている企業、日本工営株式会社様は日本最大手の建設コンサルタントです。
お客様はWeb上でUIを閲覧することができます。例えば、山の中にある点群情報は、土砂災害の警戒区域や、盛土など、常時監視しておきたい土地を指しています。お客様に見たい地域を設定してもらい、我々は衛星画像、SAR衛星の画像を調達、解析し、解析結果をこのUI上に点群として表示します。
画面に見えている「斜面変動ランク」は、斜面の動き具合がいかに危険性をはらんでいるのか、国土交通省が出されている基準に沿ってアラートを出しています。一点一点をクリックすると、過去から現在の変異をプロットしたグラフが表示されます。このクリックした地点がこの数年間でおよそ数10cm動いてきているということを見て取ることができます。お客様自身でなかなか判断しづらいというような状況でも、日本工営株式会社様の知見・ノウハウを元にアドバイスをすることが可能です。
地図は航空写真だけでなく、株式会社ゼンリン様の地図に置き換えることが可能で、この周囲にどういった特徴の家や施設があるのかが一目瞭然にわかり、その土地の特徴を把握することができます。
穴原さん:左側の白黒の画像がレーダーの衛星画像になります。マイクロ波を地面に向けて打って、マイクロ波の反射を白黒で表しています。レントゲン写真のように、多少の壁なら突き抜けるし、雲も突き抜ける。曇りの日でもその下の地面をいつでも見ることができます。右側の画像が沈下量を示しており、青いところがより強く沈んでいる場所になります。住宅地だとその資産価値にも影響してくる情報です。
実際に撮れる画像はもっと広く50Km×50Kmで、東京がすっぽり入るぐらいのエリアを一回で撮影することができます。その観測時間が大体7秒ぐらいです。7秒で東京のどの家が危ないというのがわかる仕組みですね。
これを斜面に向かって使うと、その山の斜面の管理者に役に立ちます。山の中にどんどん入っていくのは結構大変です。我々も日本工営株式会社様の付き添いでちょっと山登りを体験しまして、大変でした。
冨原さん:途中の2合目ぐらいでギブアップしました。
穴原さん:山の中に入って調べるのは大変ですが、人工衛星からであれば数秒で全部測れてしまうので、応用が期待できると思います。人手不足に対してもそうですし、危ないところに対しても使えるんじゃないかと思います。
冨原さん:従来の方法では、その場所に行って測量士が測量しています。山に測量機器を置こうと思うと、とにかく広範囲なので、ひとつの尾根の部分しかわからないとか、面的に変異を把握するというのが難しかったのですが、SAR衛星、リモートセンシング技術を使うことで、50km×50kmの全ての面(点)をカバーできます。
2021年に熱海で豪雨の後に大規模な崩落がありましたが、そうしたことを未然に防ぐために、盛土の管理者に使っていただくことができます。埋め立て地がどれぐらい沈下してしまったとか、その資産価値を把握することができたり、電力会社であれば、設備の老朽化具合を把握したり、どの設備から保守していけばいいのかといった投資先の判定に活用してもらえればと考えています。
―――現在はどのような使われ方が多いですか。
冨原さん:電力会社で実証が始まっています。山の中に水力発電の大きな設備を持っており、付近の山の斜面を監視したいとご要望がありました。自治体では、山の斜面や土砂災害警戒区域を管理されているような部署の方にご利用頂いています。
土地の面的な情報が得意ですので、大きな建設コンサルタントから街中の不動産屋などでも活用していただきたいと思っています。
―――LIANAの強みを教えていただけますか。
冨原さん:解析の高度さやUIの使いやすさは当社の強みだと思います。
外川:より強く沈んでいる場所は青といった色で分かり、過去に遡ってどのくらい変動しているのかもグラフで視覚的にわかります。お客様が知りたい情報を細かく可視化することができます。
また、パートナーの株式会社ゼンリン様は地図データが豊富なので、例えばこの建物が団地なのかマンションなのか、建物の階数、築年数、何部屋、何世帯くらいあるのかといった詳細な情報も出てくるので、将来的には「LIANA」に組み込んで、どんどん便利な機能をつけたいと考えています。
―――個人の自宅を調べてみるということもできるのでしょうか。
冨原さん:できます。実際、社員間で最近買ったマンションの地盤が大丈夫か?みたいなことを見てみました。
外川さん:僕の住んでいるところがたまたま解析範囲に入っていて、地盤の変動はなかったです。
―――マンションの管理組合にデータを提供して、安全ですよということも言えるかもしれないですね!
環境や社会への寄与
―――持続可能性の観点から、環境や社会への貢献を考えることはありますか。
牧尾さん:測量士不足や、足を踏み入れにくい土地での測量に労力もコストもかかることは把握していました。そのため、広範囲をカバーできる衛星の良さを活かし、低コストでの測量や2014年から蓄積したデータによる継続的な変動を確認できる「LIANA」を災害警戒区域や、不動産、都市開発などで活用していただくことで上記の社会課題を解決できるのではないかと思っています。
冨原さん:株式会社ゼンリン様、日本工営株式会社様というパートナー様と一緒に進めさせていただくことで、当社だけでは得られない気づきをいただいています。SDGsの「パートナーシップで目標を達成しよう」にも合致しています。
―――LIANAのこれからの挑戦を教えてください。
外川さん:現在もお客様から「こういう機能が欲しい」や「もっとこうしたらどうか」というお声をたくさん頂いています。それを常に考えて、アプリケーションを開発していきたいです。また斜面の地滑りに影響を与えるデータは衛星データ以外にもありますので、そういった情報を掛け合わせてより良いサービスにしていきたいと思います。
西澤:「LIANA」だけではなく、社会課題を解決するサステナブルかつお客様からも求められて売れるサービスを、もう1個、2個3個と作っていくのが目標です。
(インタビュー日: 2023年4月5日)
「LIANA」サービスは、平常時から広域かつ低コストのモニタリングを可能にし、災害に対する不安の低減、安全な街づくりに貢献します。今後、国内の地方自治体およびインフラ企業等を対象に売上拡大を目指していきます。
関連リンク:
株式会社ゼンリン:総合トップ | 株式会社ゼンリン (zenrin.co.jp)