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ニュースリリース

世界初、成層圏下層から38GHz帯の電波伝搬実験に成功
~HAPSによる成層圏からの通信サービスの提供実現に向けて~

2023年01月24日

 株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)、スカパーJSAT株式会社(以下、スカパーJSAT)は、2022年10月12日(水曜)に、成層圏下層(上空約14km)から地上の受信機への38GHz帯の電波伝搬実験(以下、本実験)を実施し、世界で初めて※1電波伝搬測定に成功いたしました。

 両社は成層圏(上空約20km)に通信装置を搭載した高高度プラットフォーム(以下、HAPS)を飛行させることによる、空・海を含むあらゆる場所への通信サービスの提供を検討しております。本実験によって高速通信に適する38GHz帯の電波を利用した、成層圏から地上の固定局への通信サービス提供の実現可能性を実証しました。これにより、将来的にHAPSを用いた高速大容量かつ低遅延の非地上ネットワーク(Non-Terrestrial Network:NTN)の実現が期待できます。

 本実験では、可搬基地局などの固定局への通信サービスを想定し、エアバスが制作した送信機を搭載した有人航空機を成層圏下層で飛行させました。この送信機から38GHz帯の電波を送信し、地上に設置した受信機で複数の仰角における電波の伝搬特性の測定を行いました。また、38GHz帯の電波は降雨による電波減衰の影響を受けやすいことを踏まえ、晴れ・曇り・雨それぞれの気象条件下で測定しております。
 測定の結果、「厚い雲を電波が通過する場合であっても、38GHz帯の電波に対する影響は小さい」こと、および「傘が不要な程度の小雨において、机上計算値と同等の電波減衰が確認された」ことが分かりました。
 また、本実験ではHAPSの実運用を見据え、旋回運動する航空機を追尾することが可能な地上受信機を使用しており、さまざまな気象条件下での測定を含め、今後のHAPS研究開発および実用化に資する測定データを取得いたしました。

  • 図 1 実験で使用した有人航空機

 5Gのさらなる高度化、および6Gの活用において、通信エリアを拡大するカバレッジ拡張の実現に向けた取り組みがあります。カバレッジ拡張は、災害対策やイベント会場での通信容量確保、建設現場での重機の遠隔操作などのさまざまなユースケースでの活用が期待されています。通信装置を搭載して成層圏を飛行するHAPSを用いたNTN技術は、このカバレッジ拡張に有効のため、本実験で得られた結果を活用し、HAPSを用いたネットワークの早期実現をめざしてまいります。

 なお、本実験は総務省による電波資源拡大のための研究開発「HAPSを利用した無線通信システムに係る周波数有効利用技術に関する研究開発」(以下、本研究開発)※2における固定通信システムの研究開発の一環として実施したものです。2020年10月に、スカパーJSATを代表研究機関として、ドコモ、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、およびパナソニック ホールディングス株式会社が本研究開発の実施者として採択され、研究開発活動を開始しています。本研究開発では2023年度までに、図2に示す各課題の解決をめざしています。

  • 図 2 HAPSを利用した無線通信システムに係る周波数有効利用技術に関する研究開発

※1 2023年1月24日(火曜)現在。NTTドコモ調べ。
※2参考:https://www.soumu.go.jp/main_content/000692246.pdf



別紙1
電波伝搬実験の内容

1.実証実験内容

 今回の実証試験はオーストリアにて、2022年10月12日(水曜)に実施されました。成層圏下層(高度14km)を飛行する有人飛行機の底面に送信機を設置し、追尾機能を有する地上の受信機に向けて 38GHz 帯の電波を送信することで、電波の伝搬特性を測定しました。測定時には HAPS の実運用を想定し、晴れ・曇り・雨それぞれの気象条件にて伝搬測定を行い、電波の受信状況にどのような影響が表れるかを評価しました。
 曇りの場合では、薄い雲(図 3)と厚い雲(図 4)とで、見通し環境下(図 5)と比較して受信電力が減衰し、また雲の厚みに応じて電波の減衰量に差は生じるものの、38GHz 帯電波の減衰は小さいことが分かりました。また雨の場合では、多くの人が傘を不要と感じる程度の小雨において、机上計算値と同等の電波減衰量が確認されました。

2.実験実施日
 2022年10月12日(水曜)

3.使用周波数帯
 38GHz帯
 ※38GHz帯の周波数は、International Telecommunication Union Radiocommunication Sector(ITU-R)にてHAPS用に特定済であるため、国際標準化に則しています

4.各社の役割

企業名

役割

ドコモ

 伝搬測定案の検討
 実験で使用する航空機の手配
 測定実施および測定結果の分析

スカパーJSAT

ž 測定に関わる他の技術課題(システムの全体設計や降雨減衰補償技術等)との調整
ž 測定結果の分析



別紙2
本研究開発の概要

1.目的
 HAPSを用いたミリ波帯(Q/V帯)の広帯域な周波数(38.0-39.5GHzを中心とした36.0-42.5GHz帯)を利用して、5G Evolution & 6Gの時代に期待される多様なユースケースや災害対策における基地局へのバックホール
回線の需要に対して、タイムリーかつ高速・大容量な通信回線を提供できるHAPSシステムの開発をめざします。また、ミリ波帯を用いるHAPS通信の周波数利用効率※3を改善し、HAPSシステムの実用化に向けた要素技術を確立します。

2.研究開発内容
 本研究開発では、HAPSに搭載するミリ波帯の通信装置、および対向する地上局を開発し、HAPSの位置や飛行姿勢が変化した場合においても、他の地上システムからの電波による干渉を軽減させつつ電波の送信方向を制御し、無線通信を成立させることをめざします。また、複数の地上局を切り替える技術(サイトダイバーシチ)などを用いて、降雨減衰の影響が大きいミリ波帯においても、従来の国内における静止衛星システムを利用した携帯電話のバックホール回線と同等の接続性を確保します。
 周波数利用効率については、静止衛星システムでは、3 bit/symbol前後であったスループットを1.1倍以上の3 bit/symbol後半から4 bit/symbol台に改善することを目標とします。

  • 図 6 本研究開発におけるHAPSシステムの概要

本研究開発は、総務省の「電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)」の一環として実施しています。

※3 周波数利用効率とは、単位となる周波数や時間の無線リソースで送信可能な情報ビット数を表します。周波数利用効率を向上させることで、より高速大容量な通信が実現できます。



参考
会社概要

会社名

株式会社NTTドコモ

代表者

代表取締役社長 井伊 基之

所在地

東京都千代田区永田町2丁目11番1号 山王パークタワー

営業開始

1992年7月

資本金

949,679百万円(2022年3月31日現在)

事業内容

・通信事業
・スマートライフ事業
・その他の事業

会社名

スカパーJSAT株式会社

代表者

代表取締役 執行役員社長 米倉 英一

所在地

東京都港区赤坂1-8-1

設立

1994年11月10日

資本金

50,083百万円

事業内容

・宇宙事業
・メディア事業