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ニュースリリース

世界初、宇宙ごみをレーザーで除去する衛星を設計・開発
~宇宙のSDGs~ 持続可能な宇宙環境の維持をめざして

2020年06月11日

 株式会社スカパーJSATホールディングス(本社:東京都港区、代表取締役社長:米倉 英一)の100%子会社であるスカパーJSAT株式会社(本社:東京都港区、代表取締役 執行役員社長:米倉 英一、以下 スカパーJSAT)は、国立研究開発法人理化学研究所(本部:埼玉県和光市広沢、理事長:松本 紘、以下 理化学研究所)、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(本社:東京都調布市、理事長:山川宏、以下 JAXA)、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学(本部:愛知県名古屋市千種区不老町、機構長:松尾 清一、以下 名古屋大学)、国立大学法人九州大学(本部:福岡県福岡市西区元岡、総長:久保 千春、以下 九州大学)、それぞれとの連携により、世界初※1となる、レーザーを使う方式によりスペースデブリ(不用衛星等の宇宙ごみ)を除去する衛星の設計・開発に着手します。なお、本事業は2026年のサービス提供を目指します。

 スカパーJSATは、1989年に日本の民間企業初の通信衛星JCSAT-1号を打ち上げて以来、宇宙利用企業の草分け的な存在として、30年以上にわたり衛星通信サービスの提供を国内外に行ってきました。既存サービスに加え、2018年より開始した次世代ビジネスを検討する社内スタートアップ制度の下、持続可能な宇宙環境の維持を目指したプロジェクトを立ち上げ、産学連携で本事業の実現性の研究と検討を進めてきました。

 各種のスペースデブリ除去手法があるなか、スカパーJSATは、以下の2点に際立った利点があるレーザー方式※2を採用することにしました。

 ▻「接触しないため安全性が高い」
 ▻「スペースデブリ自身が燃料となり、移動させる燃料が不要なため経済性が高い」

 スカパーJSATはレーザーの基礎開発に実績のある理化学研究所とレーザーアブレーション※3による推力発生実験※4を行い、技術の実現性を確認しました。そして、衛星の主要なミッション機器を開発するため、2020年4月に理化学研究所内に融合的連携研究制度チームとして、正式に「衛星姿勢軌道制御用レーザー開発研究チーム」を設け、名古屋大学及び九州大学と連携しレーザー搭載衛星の設計開発(検討を含む)を進めます。なお、衛星と地上システムについては、JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)の枠組みを通じた検討を共同で実施します。

 参加各組織の役割は以下のとおりです。

■スカパーJSAT:
宇宙用レーザーを利用した不用衛星等の移動(除去)サービス開発および衛星開発全体を統括します。スカパーJSATデブリ除去プロジェクトのリーダーを務める福島 忠徳 [ふくしま ただのり]が、この不用衛星等の移動サービス開発を統括すると共に、理化学研究所内に設置する衛星姿勢軌道制御用レーザー開発研究チーム(後述)のチームリーダーを兼務します。

■理化学研究所:
2020年4月に理化学研究所内に、スカパーJSATと理化学研究所の混成チーム「衛星姿勢軌道制御用レーザー開発研究チーム」を設置し、衛星の主要なミッション機器であるレーザーアブレーションサブシステムの開発を行います。
「産業界との融合的連携研究制度」によるチーム
https://www.riken.jp/pr/news/2020/20200401_3/index.html

■宇宙航空研究開発機構(JAXA):
JAXAはスカパーJSATが主導する衛星と地上システムについて、今年度の検討を共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みを通じて共同で実施します。J-SPARCは、宇宙市場の拡大を目指し、2018年5月に始動した、民間事業者等と新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指すプログラムです。
http://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/

■名古屋大学:
レーザー推進の分野において長年の実績のある 佐宗 章弘 名古屋大学大学院工学研究科フライト総合工学教育研究センター教授(副総長(産学官連携担当))の下、レーザー照射方法の研究を行い、開発に反映します。
(名古屋大学との共同研究)
http://akagi.nuae.nagoya-u.ac.jp/

■九州大学:
宇宙環境の分野において長年の実績のある 花田 俊也 九州大学大学院工学研究院教授の下、移動する衛星の回転運動等に関する研究を行い、開発に反映します。
(九州大学との共同研究)
http://ssdlab.info/

 1957年のスプートニクの打ち上げ以来、各種の人工衛星が次々と打ち上げられてきました。地球に住む私たち人類は天気予報、衛星通信やGPSによる位置情報といった様々な形で宇宙からの情報の恩恵を受け、安心な社会と快適な生活を築いてきました。その間、使われなくなった人工衛星、故障した人工衛星、打ち上げに用いられたロケットの部品や衝突した様々な人工物の破片などが加速度的に増え続けています。例えば、1mm以上のスペースデブリは1億個以上※5と推定され、さらに宇宙空間を秒速約7.5キロメートル※6という超高速で飛び交っているため、それが人工衛星に衝突することで、衛星のミッション終了などのダメージを引き起こす可能性があります。※7
 このように、宇宙環境の悪化により、宇宙の持続的利用が不安視されています。

  • Ⓒ九州大学 ⒸスカパーJSAT


 スカパーJSATは、自社で保有する全ての通信衛星を国際ガイドライン※8に準拠した手法で廃棄しており、約30年にわたり宇宙を利用してきた企業として、きれいで安全な宇宙環境維持への義務を全うしてきました。宇宙ごみの問題はCO2や海洋プラスチックと同様の環境問題であることから、宇宙のSDGsとして本事業を通じて課題解決を目指し、今後も持続可能な宇宙環境の維持に貢献していきます。

 

※1:自社調べ
※2:特許出願中
※3:レーザーアブレーションは、物質にレーザー光を高エネルギーで照射した際に、物質がプラズマ化や気化することにより、物質が表面から放出される現象。このレーザーアブレーションを利用して推進を発生させ、不用衛星(スペースデブリ)等を移動(除去)する。
※4:レーザー照射により素材をアブレーションさせ、発生する推力を測定した実験
※5:宇宙デブリの数に関するESAホームページ
  https://www.esa.int/Safety_Security/Space_Debris/Space_debris_by_the_numbers
※6:高度約700キロメートルの低軌道の場合の速度
※7:スペースデブリ削減に関するNASA資料
Orbital Debris Mitigation in Support of Space Situational Awareness and Space Traffic Management J.-C. Liou, Ph.D Chief Scientist for Orbital Debris National Aeronautics and Space Administration International Symposium on Ensuring Stable Use of Outer Space, Tokyo, Japan,
28 Feb - 1 Mar 2019
http://www.jsforum.or.jp/stableuse/pdf/2%20OD%20Mitigation,%20SSA,%20and%20STM%20rev%202%20(Liou).pdf
※8:IADC スペースデブリ低減ガイドライン
https://www.unoosa.org/documents/pdf/spacelaw/sd/IADC-2002-01-IADC-Space_Debris-Guidelines-Revision1.pdf