2020年度 有識者意見(重要課題テーマ特定に関して)
ESG投資の視点から
2021.3.25
プロフィール
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
経営企画部副部長 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科講師(非常勤)
吉高まり 氏
IT企業、米国投資銀行等に勤務。ミシガン大学環境・サステナビリティ大学院(現)科学修士。博士(学術)。2000年三菱UFJモルガン・スタンレー証券(MUMSS)にてクリーン・エネルギー・ファイナンス部を立ち上げ。環境金融コンサルティング業務に長年従事。ESG投資およびSDGsビジネスの領域で多様なセクターに対しアドバイス・講演・調査等を実施。三菱UFJ銀行ソリューションプロダクツ部、MUMSS広報部兼務。環境省中央環境審議会地球環境部会臨時委員等の政府委員も務める。2020年5月より現職。
衛星とデータを活用した「気候変動対策」への新たなアプローチを掲げた、稀有な重要課題に期待します
これら重要課題を拝見した中で、今、スカパーJSATグループが前面に出すべき重要課題テーマは「気候変動」でしょう。日本政府がカーボンニュートラル宣言をしましたし、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応は、世界的に、義務化しつつある中、国内でも多くの企業が賛同し、取り組みを始めています。そのような中、環境課題をどう捉えているかを示すこととして重要です。
「レジリエントな放送・通信インフラの構築、情報格差の解消」の重要課題テーマは、放送・通信インフラとデータを活用して気候変動に強靭なインフラ構築とともにCO2削減を支援する本業としてのビジネスストーリーとし、社会(S)だけでなく気候変動にも貢献するものとして発信してはいかがでしょう。重要課題「リモートセンシングの開発・推進」も、同様に環境への貢献をより意識することをお勧めします。
ダイアログ時にこのような提言を私からさせていただいたのですが、その後さらなる社内協議を経て、「脱炭素社会と循環型経済の実現に向けた環境への寄与」という重要課題テーマとして表現したと、伺いました。また重要課題「衛星および地上設備等における再生可能エネルギー利用、エネルギー効率向上の推進によるCO2の削減」では自社排出のCO2削減を、「衛星を利用したCO2削減の支援」は他社の再生エネルギー発電の支援に取り組む旨を明確にしたとも、伺いました。気候変動への取り組み姿勢が伝わる重要課題となっており、大変よろしいのではないでしょうか。
また、気候変動とともに国際社会では「人権」が重要視され、日本の企業の意識の低さが問題とされています。重要課題「暴力・人権・差別等のコンテンツへの適切な対応」は、メディアのプラットフォームを提供する企業として文字通り重視すべき課題でしょう。独自の放送倫理規定などをどう実行しているかが重要になってきます。ぜひ意識を高く持って取り組んでいただきたい。
また世界の機関投資家は、ダイバーシティが進んでいる企業はイノベーションが起こりやすいと認識しています。日本においてはジェンダー不平等が問題視されることが多いですが、実は、男性への偏りだけではなく、同質すぎる経営陣の意思決定にこそ経営のリスクがあると考えられています。この課題はすぐに解決できるものではなく長期のロードマップが必要で、どう前倒しにしていくかを考え、示していくことが求められています。そのため「多様な人財の活躍」という重要課題テーマに、どうKPIを立てていくのかも今後重要でしょう。