2020年度 有識者意見(重要課題テーマ特定に関して)

サステナビリティの情報発信の視点から

2021.3.25

プロフィール

井之上喬 氏株式会社 井之上パブリックリレーションズ
代表取締役会長兼CEO 博士(公共経営)

井之上喬 氏

1968年、早稲田大学第一商学部卒。1970年に株式会社井之上パブリックリレーションズを設立。2004年より早稲田大学客員教授として「パブリック・リレーションズ論」の教鞭を執る。2009年、早稲田大学公共経営研究科博士後期課程修了。「自己修正モデル」の研究により、パブリック・リレーションズ分野で日本初となる博士号を取得。2012年より京都大学経営管理大学院特命教授。2016年から2018年、国際教養大学客員教授。2018年より神戸情報大学院大学客員教授。2012年、国際間のビジネス課題の研究や情報交換、人材育成などを目的としたグローバルビジネス学会を設立し、代表理事兼副会長に就任。

独自色のある重要課題だからこそ、経営トップによるストーリーテリングが問われる

企業が重要課題を特定し、発信を行うことはパブリック・リレーションズ(PR)につながります。経営トップがストーリーテラーとして、財務面だけでなく非財務面も含めたサステナビリティを、経営戦略として常に発信していくことが重要です。

パブリック・リレーションズ(PR)においては特色を示すことが鉄則ですが、今回特定した9つの重要課題テーマのうち、「レジリエントな放送・通信インフラの構築、情報格差の解消」や「多様なコンテンツによる生活の豊かさの向上」は、メディア事業と宇宙事業の特性をよく表しており、とくに重要な役割を果たすものと考えます。

そして「宇宙環境の改善」は、他社ではなかなかまねできない独自の課題とはいえ、グループの強みとして、国際的にも発信していくとよいテーマです。というのも、現在、宇宙に1万機もの衛星があり、スペースデブリ(宇宙のゴミ)が人類共通の問題化となる中で、スカパーJSATグループがそのイニシアチブをとることにより世界的なニュースになるなど、SDGsでの大きなブランディングにつながる可能性があります。スペースデブリの事業は、完全な事業化には至っていないとお聞きしていますが、パブリックリレーションのコストと考えれば、将来、十分なリターンが得られ、企業価値の向上へとつながることでしょう。したがって、重要課題としての優先度は非常に高いと考えます。

また「環境や社会に寄与するイノベーションの推進」を考えるうえでは、自社の技術を磨くだけではなく、技術開発に取り組むベンチャー企業を資金面で協力するといった、パートナーシップも視野に入れた支援を考えるのも重要です。

今回特定された重要課題テーマを、ぜひ今後は広報部門が戦略的に発信していっていただきたい。日本企業の多くは報道機関などメディア側の都合に従って取材に応じていますが、スカパーJSATグループとしては、そのような対応をとるのではなく、事前にプログラムされたPRプランに基づいて、ステークホルダーに対しプロアクティブに発信していくこと、またサステナビリティをストーリー化させ、メッセージとして伝えることが肝心です。これにより重要課題への取り組みに対する投資を中長期で回収し、企業価値のさらなる向上が可能になると考えます。