2023年度 有識者ダイアログ(サステナビリティ全般)
マテリアリティをSDGsと紐づけて、
部門と社員が自分ごととして取り組むべき
2023.6.6
対談者紹介
笹谷秀光 氏
CSR/SDGsコンサルタント / 千葉商科大学教授
詳細プロフィールはページ下をご参照下さい。
米倉英一
代表取締役社長
松谷浩一
取締役
サステナビリティ委員会委員長
- ※役職は2023年6月時点
SDGsはゴールでもあるが、
ツールとしてターゲットレベルまで使いこなして「自分ごと化」に
今回マテリアリティの見直しにあたり、マテリアリティとESG/SDGsの関連がわかる「ESG/SDGsマトリックス」を整理し、SDGsはターゲットレベルで事業活動に紐づけています。これにより部門や社員のKPI(重要業績評価指標)が世界の共通言語であるSDGsと連動します。マトリックスは投資家にも訴求でき企業価値向上のための有力なツールになります。加えて、社員がSDGsのターゲットを達成するという意識を持つようになるとモチベーションも向上しますが、貴社の状況はいかがでしょうか。
定期的に報告する機会を設け、部門レベルまでの落とし込みを図れていると実感しています。ただし、当社の末端の組織は「チーム」になりますが、まだターゲットがこの「チーム」レベルまでは落とし込めていません。最初が現場発信ではなかったために自分ごととして社員に捉えられていない。それぞれのセグメント、最終的にはチームがやらされ感なく、基本動作として実行できる仕掛けを考えなければいけません。
私はSDGsができた当初に国連の関係者から、「SDGsはゴールでもあるが、ツールでもあります」と習い、なるほどと思いました。その視点で、世界でも、日本でもSDGsを活用している企業は多くありますが、ターゲットレベルまで使いこなしている企業はまだ少ないです。そこまで使いこなすとSDGsが社内で「自分ごと化」して浸透していきます。私の支援した企業事例からみても、SDGsは部署と紐づけることで、社員に自分ごと化されやすくなる例が多いです。
主にBtoBをビジネスとする宇宙事業では、脱炭素に力を入れるユーザー企業から、衛星が太陽光で発電することも含めカーボンニュートラルの観点で期待され、地上拠点の実質再生可能エネルギーへの切り替えなど対応も行ってきました。お客様の認識が進めば、よりSDGsをツールとして活用しやすいと感じます。
マテリアリティのKPIは本業とのシンクロが重要
その通りで、今や政府、各業界でSDGsが「主流化」しているので、貴社のようなSDGsの先駆者にはチャンス到来です。そのためにもマテリアリティのKPIは、本業とシンクロさせることが重要です。今回見直しではどの程度シンクロしているでしょうか。
基本的にはシンクロするようにしています。今回の見直しでも、事業進捗に合わせてアップデートしています。
それは重要なことです。本業とシンクロさせることで「競争戦略」につながるからです。国際統合報告評議会(IIRC)が統合報告書を提唱して以降、財務情報と非財務情報
との「Connectivity(コネクティビティ):結合性」が強調され、非財務情報が財務情報にどう影響を与えるのか、シンクロを見せることが企業に求められています。
最近、「未財務」という言い方も聞くようになりました。「非財務」ではなく、今後財務情報として育っていく、または、育てていくということです。例えば、人的資本も「未財務」と言えるでしょう。人材について、仕組みを作ることでいずれ財務に好影響を与える。それがダイレクトに数値化できるかどうかわかりませんが、未財務の財務への「コネクティビティ」を意識して推進していかないといけない。
企業の事例で上手に活用しているものはありますか。
ある企業の例ですが、多くのKPIを本業そのものと関連付けて、例えば、自社商品の契約件数の増大と設定しました。その背景には、自社のサービスの特性とSDGsの関連付けをきちんと行った結果、自社サービスの優れた特性が浮き彫りになりその契約が増えることは、SDGsに貢献すると説明できました。そして、本業を通じ社会のために「共通価値の創造」を実現していくという構成にしました。このように、非財務の活動を共通価値創造のための「競争戦略」と理解して、内外に説明していくアプローチが大事です。他社にはない持ち味をどうSDGsと絡めるかがポイントです。
ESGそれぞれの重要課題の対応が競争戦略そのものに
競争戦略とお話しいただきましたが、私は企業の取り組みは日本の企業の競争力、これに繋がらなければいけないと考えています。
仰るように、今や、ESG、それぞれの重要課題の対応が競争戦略に絡んできます。Eではカーボンニュートラル、循環経済、廃棄物、生物多様性など、Sではダイバーシティとインクルージョン、地域社会、人権、Gはこれらの進め方も含めたコーポレートガバナンスの強化です。
これらの課題に対しスピード感を持って対応しなければなりません。また、今や投資家をはじめとしたステークホルダーへの「開示」が要求されます。統一的な開示のルール化が進み、ステークホルダーは企業の取り組みを比較できるようになりますから競争戦略そのものになるのです。
サステナビリティの取り組みとして、社会、環境、経済という3つのキーワードに、私たちがやっている仕事を照らし合わせてどのように説明できるのか意識することがすごく重要と考えます。私たち経営層が丁寧に自分たちの言葉で、新入社員に説明すること。また採用面接のときに、スカパーJSATグループの企業の価値観、コーポレートミッションを語るときなどに、サステナビリティを盛り込んで説明できないといけません。このように、きちんと説明責任を果たすことが求められています。
貴社のサステナビリティ体系は、統合報告書やホームページでモデル的で優れた整理になっています。経営層だけでなく、現場セクションが「ワンボイス」でこれを効果的に活用できるようになると良いでしょう。そうすると貴社の「価値創造ストーリー」と関連づけて、自分の担当事業を説明でき、社員は自信を持って商品やサービスを売り込むことができるようになります。
宇宙の話をすると、時間軸が5年後、10年後になるわけですが、5年後の売上だけを見られるのではなく、「未財務」にきちんと焦点を当てた見られ方をするようになると実に嬉しく思います。
サステナビリティの取り組みの要点は、中長期的視点で捉え、未来の意欲的な目標を立て、そこから「バックキャスト」して考えることです。宇宙事業を含めた貴社事業ではまさにそのような整理が進んでいますのでそれが強みです。
この場合重要なことは、貴社がどのような「パーパス」(志)の下でどのようなプロセスとビジネスモデルの特性で価値創造していくかについての適切な情報発信です。貴社はそのコンテンツが整っている「SDGs経営」ですので、社長のイニシアティブの下、ますます発信を強めていく時期に入ったと思います。今後の世界的視野での発信と進展を期待しています。
プロフィール
笹谷秀光 氏
東京大学法学部卒業後、1977年農林省入省、2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年株式会社伊藤園入社、取締役、常務執行役員を経て2019年退社。2020年から千葉商科大学教授、2022年から同大学サステナビリティ研究所長に就任。 博士(政策研究)