2020年度 有識者意見(重要課題テーマ特定に関して)

SDGsを起点にしたCSVの視点から

2021.3.25

プロフィール

笹谷 秀光 氏CSR/SDGsコンサルタント
千葉商科大学教授 博士(政策研究)

笹谷 秀光 氏

特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム理事、日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事。
東京大学法学部卒業。1977年農林省(現農林水産省)入省。環境省大臣官房審議官、農林水産省大臣官房審議官、関東森林管理局長などを経て、2008年退官。同年株式会社伊藤園入社。2019年まで取締役・常務執行役員などの立場で同社のCSR/SDGs推進を担当。2020年4月より千葉商科大学基盤教育機構教授。博士(政策研究)。

SDGsのプラットフォーマーとして、ルールメーカーになり、企業価値の向上へ

今回特定された22のマテリアリティと9つの重要課題テーマは、SDGsの169ターゲットを、ISO26000の7つの中核主題やESGに照らし合わせ、私が提唱する「ESG/SDGsマトリクス」の手法で整理されているので、国際社会や海外投資家が見たときにも、理解しやすい形になっていて、大変よろしいかと思います。

重要課題を特定する際には、CSRのように非財務だけの訴求に偏ってはいけません。投資家からは、果たしてその課題解決を通じて経営が持続的に強くなるかという視点が求められるからです。例えば「レジリエントな放送・通信インフラの構築、情報格差の解消」という重要課題テーマはもちろんとても良いのですが、これに対するコスト、投資をどのように考えているのかも、必ず併せてチェックされます。財務と非財務のシンクロがいわゆる統合思考と言われるものです。つまり、社会課題解決と利益創出の同時実現を狙うCSV (Creating Shared Value)の実践です。報告書にする際は忘れず意識してください。

また、「レジリエントな放送・通信インフラの構築、情報格差の解消」、「脱炭素社会と循環型経済の実現に向けた環境への寄与」、そして「環境や社会に寄与するイノベーションの推進」は、メディア事業、宇宙事業の共通した重要課題テーマとして位置付けておられ、非常に注目に値すると感じています。私はこれらを通じ、貴社が“SDGsのプラットフォーマー”として取り組みを推進することを、強く提言したいと思います。スカパーJSATグループのような業界トップのプラットフォーマーがSDGs化すると、周りへの波及効果は絶大です。世界共通言語であるSDGsには言わば磁石のような力があり、SDGs企業が集まり、そこから優良なSDGsコンテンツをつくるイノベーションが起こる可能性が高いと考えます。そのためにも、SDGsは取り組む社会・環境課題を客観化する効果がありますので、これを使って重要事項を選定した今回の作業プロセスは素晴らしいですし、世の中に発信していくとSDGsの視認性の高さも相まって世界的に訴求力が出てきます。

重要課題を特定した次のフェーズとして、2つの軸が大事になってくると考えています。時間軸とパートナー軸の2軸です。

時間軸とは、まずSDGsの目標年次である2030年にあるべき姿としての理想的なゴール、野心的な目標を描いて、そこからバックキャストして、現在今はどうすべきかと具体的なアクション考える必要があります。ステークホルダーからは、その実現に向けてどのような中長期のロードマップを描いているかを問われますので、その際の回答にも今回の作業が役立ちます。

次にパートナーシップ軸ですが、バックキャストで設定した、高い目標の達成には、イノベーションが求められます。ですが、複雑な課題対処にはイノベーションは1社では限界があり、ここでパートナーが必須になってきます。これは他社も同様で、だからこそ、宇宙事業、メディア事業のそれぞれの特性に応じた、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」と目標17「パートナーシップ」が重要です。貴社の衛星インフラやデータを活用した、他社の再生可能エネルギー発電の支援は目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」につながります。「衛星を利用したCO2削減の支援」や、さまざまなSDGsの達成に大きな可能性を秘めている「リモートセンシングの開発・推進」は、目標13「気候変動」のカーボンニュートラルに向けた取り組みを急加速させている他社が必要とするものですし、貴社にとっても協業は有益なものになるでしょう。

そうして拓いた、新たな市場や事業における協業によるイノベーションとそれによる競争優位の実現を狙うのがCSVです。これは持続的な企業価値の向上へとつながっていく、大きな鍵となることでしょう。

※当グループの重要課題表は、笹谷秀光氏の監修によるESG/SDGsマトリクスの手法によって整理されています。