安全保障を主軸に、
「宇宙実業社」として未来を拓く
-スペースインテリジェンス事業の拡大が成長の鍵-
取締役
執行役員常務
宇宙事業部門長
山下 照夫

安全保障分野では、単一の周波数帯や軌道に依存しない、より強靭な通信ネットワークへの需要が高まっています。当社はこうしたニーズに応えるため、通信容量の拡充と衛星運用体制の強化を進めています。2026年には今後大きな需要拡大が見込まれるKaバンド通信サービスの提供に向けて、通信衛星「HYLAS 3」を購入し、2027年度上期に「JSAT-144D」として大容量かつ高速な通信サービスの運用を開始します。また、防衛省が保有する通信衛星「きらめき」の後継機に関しても、これまで培ってきた衛星運用および地上設備の構築・運営の知見やノウハウを生かし、貢献することを目指しています。
近年LEOを活用した通信サービスが市場に台頭し、選択肢は広がっています。一方で、安全保障や災害対応など、確実な通信や帯域保証が求められる重要通信分野では、高い信頼性と安定性を備えた通信インフラが不可欠です。当社は、40年近い衛星運用実績と国内地上局網を基盤に、高品質な通信サービスを提供しています。今後も、通信品質が重視される重要通信市場において選ばれる存在であり続けます。
グローバル分野においては、当社が衛星通信容量を持つエリアの潜在顧客 ━アジア・太平洋の政府系・安全保障顧客と航空会社━ に経営資源を集中させ、現地パートナーとの戦略的アライアンスにより、顧客の拡大を図ります。また、米国は世界最大級の宇宙・防衛予算を有する重要市場です。米国子会社を軸とした北米での防衛・政府系需要の取り込みも、この戦略の延長線上にあります。そのうえで各国との連携を強化しながら、多国間での宇宙共同利用に向け、積極的に貢献していきます。モバイル分野は、航空機向け通信が成長の中核です。機内Wi-Fiに対する需要は世界的に拡大しており、当社はアライアンスを活用して提供エリアと顧客基盤を拡大し、成長を目指します。通信市場の競争環境が変化するなか、HTSによる大容量通信と、通信の確実性や帯域保証といった高い信頼性を強みに差別化を図り、収益性を確保しながらサービス提供量を拡大していきます。さらに、フルデジタル衛星の活用などを通じてサービスの柔軟性を高め、多様化する顧客ニーズに対応していきます。

Universal NTNの拡大に向けて、GEO領域では新たな通信サービスの実現に向けた5G NTN技術の検証・実証を進めています。Non-GEO領域では、Amazon Leoなど、LEO事業者との協業を推進しています。GEO・Non-GEOを組み合わせることで、より広域かつ柔軟な通信サービスを実現する次世代通信インフラの構築を目指します。また、GEO・Non-GEOを問わず、幅広い衛星事業者との連携を進めています。韓国のKT SATとはGEO衛星を活用した5G NTN技術の共同研究開発に取り組み、アジア・太平洋地域での共同展開の基盤を整えています。地上通信事業者については、業界横断で検討を進め、広範な顧客層への対応力を確保する方針です。
*5G NTN:第5世代(5G)移動通信システム用に、各国国際標準化機関のプロジェクトによって仕様策定された新しい無線アクセス技術。

2025年12月の防衛省PFI案件「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」の落札は、当社のスペースインテリジェンス事業の成長を支える重要案件であり、複数年にわたる収益基盤となります。2026年4月から段階運用を開始したこの事業は、安全保障領域における当社のプレゼンス向上につながる案件と位置づけています。本事業で構築する衛星データ基盤を活用し、顧客の意思決定を支援するソリューションを拡大するとともに、民間市場への展開も進めます。

当社は、光学画像、SAR画像、熱赤外画像など多様な衛星データに加え、地上データやSNSなどの外部データを組み合わせたマルチモーダル解析を強化しています。これにより、単独のデータでは把握できない情報を抽出し、より高精度な分析や意思決定支援が可能となります。例えば、SAR画像で異常や変化を検知し、その対象を高解像度の光学画像で詳細に確認することで、効率的かつ高精度な状況把握を実現します。このような価値創出を支えるため、当社は自社光学衛星「Pelican」10機を整備し、30センチ級の高解像度データを自社供給できる体制を構築中です。また、SAR画像を提供する㈱QPS研究所との連携を強化しており、安定供給を着実なものにしています。2026年2月には、独constellr GmbHとの協業により、地球の熱を可視化する熱赤外衛星データの提供も開始しました。このように、多様なデータソースの活用による、付加価値の高い情報の提供を進めています。

当社の地球観測の優位性は、単なる画像の提供にとどまらない解析技術にあります。「見る技術(撮像)」に独自アルゴリズムとAIによる「読む技術」を組み合わせ、観測する地表面の微細な変化を捉え、顧客の意思決定を支援するソリューションを創出しています。官公庁・地方自治体向けの販路拡大を重点戦略に掲げています。衛星データを活用した道路や橋梁、空港などの重要インフラのモニタリングや、災害時の迅速な状況把握を支援するソリューションの提供を通じて、インフラ維持管理の効率化や防災・減災への対応を支援し、社会課題の解決に貢献しています。民需においても、多様な業種で衛星データの利活用が進んでいます。農林水産分野では、J-SPARC(宇宙イノベーション・パートナーシップ)を通じ、農作物の栽培予測による食品廃棄ロスの削減や、効率的な農業経営への活用が進んでいます。防災・保険分野では、地表面温度や植生の状態から山火事の発生リスクを予測する、衛星データを活用したリモートセンシングが損害保険業界のリスク評価指標として期待されています。


当社はGEOベースの技術を活用し、GEO帯におけるSDA/SSAサービスの提供を目指しています。地上と宇宙の監視手段を組み合わせ、高精度で持続的な監視体制の実現に貢献します。具体的には、JAXAが打ち上げ予定の衛星「ETS-9」に光学望遠鏡を搭載し、GEOの状況を監視する予定で、衛星の打ち上げ時期にもよりますが、SDA/SSAは当社が取り組む新規領域の中でも早期の事業化が期待される分野の一つです。
競合優位性の観点では、GEOを活用したアーキテクチャが安定性とコスト面で強みがあります。LEOコンステレーションと比較した場合、少ない機数で広範囲をカバーでき、インフラ構築コストを抑えながら高い信頼性を提供できます。2028年度以降のサービス開始を想定し、防衛省事業の受注、JAXA宇宙戦略基金への採択、欧州衛星オペレーターHELLAS SAT Consortium Limitedとの連携など、実証・受注・国際連携を重ねており、事業立ち上げに向けた基盤が整いつつあります。
現在は国内外ともに実証フェーズにあり、市場形成に向けた段階にあります。競合も同様に実証段階にあるなか、当社はJAXA宇宙戦略基金の「衛星量子暗号通信技術の開発・実証」に参画し、衛星量子鍵配送のリーディングカンパニー、SpeQtral Pte. Ltd.との提携契約を締結しました。2030年代前半のサービスインを目指しています。未成熟な市場だからこそ、先行投資と技術実証を積み上げ、将来市場を形成する際に競争優位性を取れるよう取り組んでいます。期待を集めるQKDですが、量子状態の脆弱性や長距離伝送時の損失の大きさから、現時点では数百kmを超える通信に課題があります。また、衛星から「鍵」を受信する際、地上局上空を通過する時間は数分に限られ、効率的な連携も必要です。実用化に向けた国際標準化が進むなか、当社も技術開発や実証への参画を通じて、標準化議論への貢献を目指しています。

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