社長メッセージ

既存ビジネスの延長線上に
とどまることなく
新領域への大胆な投資を行い、
2030年に当期純利益
250億円超を目指します。

代表取締役社長

米倉栄一

社長就任後3年間の取り組み

私は社長に就任してすぐに、当社のビジネスモデルが将来的に持続可能であるかの検討を始めました。私は長年、社会インフラに関係する仕事に携わってきた人間なので、宇宙事業のビジネスモデルに対する理解には時間を要しませんでしたが、メディア事業に対しては門外漢ながらも、動画配信が急速に普及している状況にもかかわらず、コンテンツとその数が多ければよいという旧態依然とした発想で、採算意識の低さや中長期的な展望が描けていない状況を放置しておくわけにはいかないと思いました。

宇宙事業に関しても、安定的な収益を積み上げているとは言え、既存の衛星放送やBCP利用に依存する傾向が強く、成長という視点では次の手を早く打つべきではないかと感じました。こうした外部からやって来た人間だからこそ強く感じる経営課題を一つひとつ解決し、未来につなげるために、この3年をかけて徹底して選択と集中を行い、特にメディア事業では不採算事業からの撤退を進め、宇宙事業では新たな成長の基盤作りに努めてきました。

2030年に向け目指す姿を公表

世界では新型コロナウイルス感染症拡大に続いて、ロシア・ウクライナ情勢といった地政学上のリスクの増大など予測不能な変化が起き、直接・間接的に当社にも影響を与えています。これに比べ、当社を取り巻く業界変化はある程度まで予測可能なものですが、そのスピードは想定以上です。

メディア事業においては、プレイヤーが乱立し、キラーコンテンツを有しているだけで収益を上げられる状況ではなくなっています。この傾向は強まりこそすれ、収まることはありません。衛星放送に依存するだけでは生き残ることが難しく、FTTHや動画配信という導線とメディアセンターのインフラといったものをベースに、コンテンツプロバイダーに対する、放送・配信プラットフォームビジネスへの方向転換を余儀なくさせています。

一方で、宇宙事業においては、さまざまな形での宇宙空間利用が進もうとしています。このため、30年以上にわたり蓄積した宇宙・衛星サービス分野での経験を活かしながら、社会インフラを支える衛星の保有・運営にとどまらず、変わりゆくニーズに応じた、多様な通信インフラを提供できるよう、進化していく必要があります。

グループミッション「Space for your Smile」のもとで、これらの外部環境変化と事業変化の必然性を踏まえ、当社が2030年に目指す姿を開示しました。宇宙事業では、超スマート社会と呼ばれる「Society 5.0」の実現に向けて、当社の得意とする分野で成長を目指すとともに、メディア事業では、コンテンツの放送・配信向けインフラを提供するプラットフォームビジネスへの転換を図っていきます。

NTTとの共同事業

もっとも、今後の宇宙ビジネスの可能性からして、2030年までの2,000億円超の投資によってできることは限られています。それゆえ、今回、当社とNTTで共同事業を行う新会社(株)Space Compassを設立し、宇宙空間における新たなICTインフラ基盤の整備を行うことを目的に、両社が持つ技術・人財・事業基盤を補完的に活用させます。具体的には、宇宙空間に構築する光無線通信ネットワークおよび成層圏で構築するモバイルネットワークを手始めに、新たなインフラの構築に挑戦することで、世界の宇宙産業の発展と持続可能な社会の実現に貢献していくことを目指しています。ここでは、当社の強みとして、衛星・システムをビジネスとして発展させる力に加え、周波数・無線局免許や通信衛星・ネットワークの運用等衛星オペレータとしての知見と業界リレーションシップを活かすことができると考えています。


今回の(株)Space Compassの出資比率は、NTT50%、当社50%で、どちらかが主導権を握って一方的に進めることのないようにしています。このビジネスには非常に大きな未来がありますし、将来的にはさらなるパートナーの出資も可能であり、さまざまなプレイヤーが参加することで、大きなビジネスにできるものと確信しています。

メディア事業の未来

メディア事業では、もはやコンテンツプロバイダーではないということを自覚した上で、どうすべきかを考えることが重要だと思っています。加入者が減っても、コンテンツを届ける手段である衛星放送の導線は決して不要にはなりませんが、コンテンツプロバイダーの数は増える一方です。我々には、放送・配信リソースに加えて、衛星放送で長年培ってきたノウハウがあります。これらを有効活用して新たな活路を見出すことが、メディア事業においてさらなる成長を実現する唯一の道だと考えています。

そこで、ストリーミング端末やアプリの開発、広告プラットフォーム、動画配信技術、データマネジメントやコンテンツデータベースのシステム技術向けの投資やコラボレーションを積極化させています。今回、メディア事業において500億円超の投資を行うと決めたことで、外部からそんなに投資して大丈夫かと懸念の声があることも承知しています。しかし、これは、コンテンツではなく、事業投資(出資)、アライアンスも含めたメディア関連サービスのインフラ会社として生まれ変わるために必要な投資です。動画配信にかかるインフラもメディアセンターの再構築を始めており、既存の設備や技術を活かしてリスクを低減しながら進め、最終的にはハイブリッドに対応する、パートナーから選ばれる会社になりたいと考えています。

当社の社会的意義

2030年における当社のありたい姿は、もちろん、経済的価値だけでなく、社会的価値としての向上も重要なテーマです。当社グループは、「宇宙」と「メディア」を事業ドメインとする「宇宙実業社」として、人工衛星を通じた放送プラットフォームと通信インフラを提供するという大きな社会的責任を担っています。2030年に向け、この役割はますます大きくなると考えており、社会にとってより一層必要な存在になるべく変革を進めていきます。

加えて、当社はプライム市場に上場する会社として、株価もしっかり意識し、安定的な配当を継続すると同時に、機動的に自社株買いも行っていく方針です。株価については、当社の企業価値が外部目線で測定された1つの指標であり、役職員全員が意識するようにと言っています。成長性の乏しい企業、未来のない企業の株価は上がりません。また、成長できない企業には必要な人財、有力なパートナーも集まりません。株価は、その成長を外部のステークホルダーがどう見ているかの1つの鏡だと考えています。PBRが1倍以下というのは論外です。自分たちの行動が外部にどう評価されているのか、そこを知る指標として株価を意識し、そのためにも成長を実現していくことが重要だと考えています。

人の変革

2030年に目指す姿を実現するには、一人ひとりが強い意志を持って行動し、スピード&アクションを心掛けて会社を変えること、REPOWERINGと言っていますが「人の変革」が重要だと考えています。そのために、事業ビジョンの実現に最適な人員配置を行うとともに、採用と育成も注力していきます。同時に、そうした人財の能力を引き出し、最大限に活用するには、縦割り組織の硬直性を打破する必要があると考え、縦横組織連携を図る「クロスファンクショナルチーム(CFT)」を新設しました。その責任者については、可能な限り抜擢登用を行い、人財の活性化や組織の機動力向上につなげていきたいと考えています。

環境への取り組み

当社は、エネルギー会社や素材メーカーとは異なり、自社で消費するエネルギー量が少ないため、環境貢献のためにエネルギー削減を図るといっても、そのインパクトには限界があります。
元来、衛星通信は地上回線に比べて約3分の1の消費電力で運用する等、省エネルギー化が進んでいます。加えて、横浜衛星管制センターと茨城ネットワーク管制センターでは、2021年1月にすべての使用電力を再生可能エネルギー由来の電力への切り替えを行っており、残る拠点も順次切り替えを進めています。

一方で、事業を通じた環境への貢献については、太陽光発電に向けた日照量の予測、風力発電に向けた通信提供等、再生可能エネルギーの供給に寄与する可能性があり、こうした方面でインパクトのある新たな取り組みを進めていきたいと考えています。

成長を実現するためのガバナンス

当社ではこれまで、複数名の社外取締役を選任し、取締役会の諮問機関として指名報酬委員会を設置する等のガバナンス強化を進めてきました。さらに、役員報酬についても、業績の向上と中長期的な企業価値増大への適切なインセンティブを考慮した固定報酬、業績連動報酬および株式報酬を設定し、指名報酬委員会の答申を受けた上で決定しています。

このように、一般的に求められるガバナンス対応施策は整備してきましたが、私は、今後の成長に必要なことは、適切なリスクテイクに対する判断を、より一層スピード感を持ってやっていくことであり、それにつながる事業会社の執行役員レベルの意識改革、行動改革が重要であると思っています。

正直、この期に及んでも、まだコンサバティブな空気が社内に残っており、これを変えていく必要があると考えています。これまで当社では執行役員に就任すると一定の任期が保証されていましたが、取締役と同様に1年任期へと改めました。そうすることで、一定の成果を出さなくてはならないという自己変革を促し、リーダーシップを発揮しながら成長に向けた経営課題に取り組んでもらっています。また、執行役員に対して株式で支給する報酬の仕組みも配分割合を引き上げる等、株主と同じ目線を持つことへの重要性や、企業価値向上への意識を高めるようにしています。

当社は今、まさにガバナンス強化を断行する時だと思います。変化の激しい業界で100点にこだわって躊躇する人財ではなく、次への一歩を踏み出すための処方箋を書ける人財が必要です。その答えが60点であっても会社を前に進めていく、そういうことを言える人財が欲しいし、言えないのであれば去ってくれ、とさえ考えています。もちろん私もその覚悟です。

ステークホルダーの皆さまへ

日本国内での一般的な当社のイメージはスカパー!が先行しており、30年以上宇宙事業を行っているJSATのことはあまり認知されていません。しかし、海外では逆に、JSATのイメージが強く、スカパー!のことはほとんど知られていません。これが当社イメージの実態かと思います。そこから脱し、これから当社はどこに向かっていくのかをすべてのステークホルダーに正しく知っていただく、そういう狙いもあって今回、2030年に目指す姿を公表しました。

目指す姿の実現のために、当社は、資金、人財、時間をどこにどう投下していくのかを明確にしつつ、新たなチャレンジを行うと同時に、それらを実績として積み上げていくことがマストです。その結果として、宇宙事業、メディア事業を併せ持つユニークで面白い会社、新しいものにチャレンジし、キラキラ輝くような会社に変貌させたいと考えています。ステークホルダーの皆さまには、時に厳しいご意見もいただき、今後ともご支援賜りますようお願い申し上げます。