宇宙事業

SWOT

中長期の事業戦略

国内衛星ビジネスでは、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との間で、近地球追跡ネットワーク※サービス 提供に係る協定を2023年3月に締結しました。既存顧客に対する通信回線サービスの長期契約更新の提案に加え、通信衛 星・回線の運用を通じて得たノウハウを活かした新たなサービスを展開し、収益機会を広げていきます。

グローバル・モバイルビジネスでは、JCSAT-1CとHorizons3eの2機のHTSの利用拡大を目指します。また、2023年8月に打ち上げた米国INTELSAT社との共同保有衛星Horizons-4により、北米および太平洋地域の通信需要の増加に対応します。さらに、2027年上期には、カバーエリアや伝送容量を軌道上で柔軟に変更できるフルデジタル衛星Superbird-9の運用開始を予定しており、市場や顧客の多様なニーズへの対応を通して、日本をはじめとする東アジア地域における一層の事業拡大と競争力強化に努めていきます。

新領域では、ビジネスインテリジェンス分野でのサービス拡大を加速しており、2022年11月に、(株)ゼンリン、日本工営(株)と、衛星データを用いて斜面やインフラの変動リスクをモニタリングするサービス「LIANA」を立ち上げました。また、36機の小型SAR(合成開口レーダー)衛星コンステレーションによる、準リアルタイム地上観測データサービスの提供を目指す(株)QPS研究所の追加調達ラウンドに参加、2023年7月には小型SAR衛星の運用業務に係る契約を締結するなど、同社とのパートナーシップを強化しています。

通信分野においては、SpaceCompassほか関係各社と連携しながら、新たな宇宙インフラの構築を目指します。

さらに、衛星量子鍵配送、宇宙ごみ対策など新たな技術を用いたサービスの事業化検討のほか、安全保障分野でも宇宙状 況把握等のサービス提案を積極的に行っていきます。

宇宙事業では、超スマート社会の実現に貢献することを事業ビジョンとして掲げ、革新的な通信ネットワークおよび地球 規模のデータ収集ネットワークの構築に向け、Universal NTN(非地上系ネットワーク)や、光データ中継、ビジネスインテリジェンスなどの分野に1,500億円超の投資を行い、2030年にはセグメント利益210億円を目指します。

  • 宇宙空間にある人工衛星と地球間で通信を行うため国内外に設置された地上アンテナ群と、このアンテナ群およびその付帯設備を使用するための計画を管理するシステムの総称。

宇宙事業の重要課題とKPI

重要課題テーマ

重要課題

(マテリアリティ)

長期 短期 KPI・実績
長期目標(2030年にありたい姿) 短期達成目標 2022年度実績
レジリエントな放送・ 通信インフラの構築 情報格差の解消 あらゆるエリア・環境への放送・通信インフラの 提供 どんなときも、地球上のあらゆる「つながりを求めるもの」にコネクティビティを与え、信頼性の高いサービスを絶え間なく提供する 災害に強い放送・通信インフラ整備とエリア拡大により、 どんなときも、どこにいても地球上のあらゆる「つながりを 求めるもの」にコネクテ ィビティを与える 当社衛星フリートの利用帯域を、前年度末比で拡大する 衛星フリート利用帯域:前年比+13%
災害に強いレジリエントな放送・通信インフラの提供を通じたBCPおよび救援・復興支援 当社衛星フリートの利用帯域を、前年度末比で拡大する 衛星フリート利用帯域:前年比+13%
技術イノベーションを踏まえた衛星通信サービス の高信頼性・高持続性に向けた取り組み 衛星事業者の垣根を越えて、予備衛星や管制局の共有 または相互貸借するパートナーシップを構築することにより、 サービスの信頼性を向上する 重大なサービス断技術イノベーションを踏まえた衛星通信サービス を毎年ゼロ件にする

該当する重大サービス断無し

脱炭素社会と 循環型経済の実現に 向けた環境への寄与 衛星を利用したCO2削減の支援 再生可能エネルギー発電・供給への寄与を拡大する 太陽光発電出力予測システムユーザー企業による再生可能エネルギーの発電量を拡大させる
  • 地方自治体における地域内再生可能エネルギー融通(自己託送)の実証活動対象である同自治体内の三ケ所の太陽光発電所に対して、電力中央研究所と共同開発したシステムによる日射量予測データを提供
  • データ提供対象の太陽光発電所の総出力は2021年度の3倍
  • フィリピンにおいて風力発電による電力で通信を行う衛星インターネットシステム1件が稼働を開始、地元行政機関が防災通信用途に利用開始
チャレナジー案件を通じた再生可能エネルギーの供給を拡大させる
宇宙環境の改善 宇宙ごみ削減への取り組み 宇宙ごみ除去サービスを事業として確立させる 宇宙ごみ除去サービスの事業化を実現する 宇宙ごみ除去サービスの事業化に向けて、パ―トナー企業より検討業務を受託し、技術開発、ミッション解析・設計を進展
環境や社会に寄与する イノベーションの推進 リモートセンシングの開発・推進 リモートセンシングを活用した事業を進化させ、環境保全や社会の発展に寄与する リモートセンシング案件を拡大する
  • 洪水被災状況把握
    • 国土交通省中部地方整備局からパートナー企業経由SAR画像解析業務を受注
  • 斜面・インフラモニタリング
    • SARデータを活用する「LIANA」サービスを開始
  • ため池モニタリング
    • 2022年5月にInSAR解析の高精度結果を発表
  • 河道地被分類
    • 内閣府の「令和4年度 課題解決に向けた先進的な衛星リモートセンシングデータ利用モデル実証プロジェクト」の解析業務を受託

事例1 日本郵船(株)の洋上風力発電向け作業員輸送船「RERA AS」に『JSATMarine Light』を導入―海上における途切れない通信を実現

日本郵船(株)の洋上風力発電向け作業員輸送船「RERA AS」に「JSATMarine Light」を導入̶海上における途切れない通信を実現衛星通信は、離島や山間部など地上通信インフラの整備が難しいエリアにおける通信を実現してきました。航空機・船舶等の移動体も衛星が通信を可能としたもののひとつです。現在では、衛星を経由した海洋ブロードバンドサービス「OceanBB Plus」、「JSATMarine」の提供により、海上における高速大容量の通信を実現しています。

2022年8月には、内航船向けに通信エリアや契約プランを最適化し、エヌ・ティ・ティ・ワールドエンジニアリングマリン(株)が提供するLTE網を用いた定額データ通信サービス「マリタイムモバイル®A-Pro」と組み合わせた、内航船向け定額制衛星通信サービス「JSATMarine Light」の提供を開始しました。本サービスは、LTE網圏内と圏外で自動的に回線を切り替えることにより、海上における“途切れない通信”を実現します。

2023年5月には、日本郵船(株)が保有する洋上風力発電向け作業員輸送船「RERA AS」に本サービスが導入され、船陸間の業務用通信や船員の福利厚生のための通信として活用されます。

今後もお客さまのニーズに応えるべく、また、船舶の運航を支える重要なインフラとして、さらなるサービス向上に努めてまいります。

  • 洋上風力発電向け作業員輸送船「RERA AS」外観

事例2 カタールにおけるSAR衛星画像を用いた海上オイル漏れ検知サービスを提供開始

2023年6月、伊藤忠商事(株)と共同で、カタール環境省に対し、SAR衛星画像情報を活用した海上オイル漏れ検知サー ビスの提供を開始しました。

本サービスは、業務提携先であるノルウェー衛星事業者大手のKongsberg Satellite Services AS(以下KSAT)、およびKSATのパートナーが保有する地上局にて取得したSAR衛星画像情報を用いて海上のオイル漏れを検出し、さらに船舶から発信される船舶自動識別装置の情報と組み合わせて解析することにより、オイル漏れのあった船舶を特定するものです。

今後、本サービスを継続的にカタールへ提供することに加え、同様の需要がある海域の国や企業にも展開することによ り、沿岸部の海水淡水化施設や発電所などの重要施設をオイル漏れによる被害から防ぎ、海洋環境の保護に貢献します。

今後も、社会と環境の持続可能性への貢献と健全な事業活動による社会課題の解決を通じて、企業価値の向上を追求し、 人々の暮らしに安心や快適さをお届けすることで、持続的な成長を目指します。

  • カタール環境省向けオイル漏れ検知サー ビスのイメージ画像

「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の現在地

笹尾 祥吾

スカパーJSAT株式会社
宇宙事業部門
経営企画部
経営戦略チーム長

私たちは「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」という新たな宇宙インフラの構築を通じて、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。本構想を推進するために、2022年7月にNTTと合弁会社Space Compassを設立しました。

未来社会が求める通信要件に応えるため、静止軌道衛星に低軌道衛星、HAPS(高高度プラットフォーム)などを加えた多層的な通信ネットワーク(Universal NTN)を構築し、地上の通信ネットワークだけでは対応できない課題を、宇宙から解決したいと考えています。 例えば、そのひとつが、通信エリアの地域格差です。日本でも山間部や過疎地などでは、データ通信ができないエリアが残っています。地上基地局の通信エリアには限界がありますが、Universal NTNを利用すれば地球上のどこにいてもネットワークにつながる環境が実現します。

地球観測分野でも広く活用されている低軌道衛星は、衛星が地球を周回するため、取得したデータを地上に送信できるタイミングが限られ数時間後になってしまうケースもあり、災害時の状況把握などに活用する際には課題となります。こうした背景から、それぞれの軌道の衛星の特性を活かし、組み合わせて連携させていくことが重要だと考えています。Space Compassでは、低軌道衛星で収集した高解像度データを、高速大容量の光通信を用いて、常に地上とアクセス可能な静止軌道衛星へ送り、さらに地上へと伝送する「光データリレーサービス」を2024年度に開始することを目指し、光データ中継衛星の調達を進めています。

さらに10年先を見据えると、宇宙で発生するデータは飛躍的に増大することが予想され、光通信を含む衛星通信技術が進化しても、すべてのデータを地球に送ることは難しくなると考えています。そこで、エッジコンピューティングを宇宙空間にも適用し、宇宙でデータ処理を行い、必要なデータのみを地上に送る技術も必要になると考えています。

目指しているのは、人が意識しなくても、インフラ側が最適な通信に接続してくれる世界観です。

都心にいるときは近くにある地上の基地局にアクセスし、地方で山登りをしているときはHAPSにつながり、飛行機に乗っているときは静止軌道衛星を経由する。さらに、宇宙空間でデータが解析され、必要なデータのみが地上に送られてくる未来。

宇宙事業におけるスカパーJSATのノウハウを活かし、多くのパートナーと力を合わせながら市場を開拓し、2030年代には「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」を形にしたいと考えています。