事業概況[宇宙事業]

グローバル・モバイルと新領域での
事業拡大により
持続的な成長を目指します。

代表取締役

(スカパーJSAT株式会社 宇宙事業部門長)
福岡 徹

SWOT

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中長期の事業戦略

衛星通信サービスでは、グローバル市場で事業を拡大していくため、アジア初の「フレキシブルペイロード」と呼ばれる最新技術を搭載したSuperbird-9によるサービスを、2025年度に開始予定です。これは現在運用中のSuperbird-C2の後継機で、市場や顧客のニーズに応じてカバーエリアや伝送容量を軌道上で柔軟に変更することができるフルデジタル衛星です。

こうした取り組みにより既存サービスの競争力を高めながら、一方で新領域への進出を加速していきます。宇宙産業は、さまざまなモノがデータを介してつながる超スマート社会(Society 5.0)において重要な役割を果たすと考えられます。当社は2019年からスペースインテリジェンス事業の取り組みを開始し、幅広い領域で衛星データを活用したソリューション事業の基盤を作ってきました。

具体的には、災害時の状況把握や平時の継続的な国土・インフラ監視等に有用な衛星データ解析情報サービスを事業化するため、当社を含む
6社で「衛星データサービス企画(株)」を設立し、2023年度からの本格的なサービス提供を目指しています。また、2021年12月には、「(株)QPS研究所」のシリーズBラウンド※のリード投資家として資本参加しました。同社は、世界初となる高精細小型SAR(合成開口レーダー)衛星による準リアルタイムの地球観測システムの実現を目指しているベンチャー企業です。同社との業務提携を通じ、地球上の広範囲を周期的かつ自動的に観測できる小型SAR衛星コンステレーションを活用した衛星データ事業の育成を進めていきます。

さらに中長期の取り組みとして、衛星のみならず高高度通信プラットフォーム(HAPS)等多様な通信プラットフォームを介して、海・空・宇宙等の異なる空間を相互につなぐUniversal NTN(非地上系ネットワーク)の構築に注力していきます。そのため、日本電信電話(株)と、宇宙空間をICTインフラ基盤として最大限活用する「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」構想の実現に向けた業務提携契約を締結しています。2022年度はその第一歩として合弁会社「(株)Space Compass」を設立し、宇宙データセンタ事業(光データリレーサービス等)と宇宙RAN事業の創出を目指します。加えて、政府系プロジェクトとしては、衛星通信を利用した量子暗号通信網の実現に向けた研究開発にも取り組んでいます。

宇宙事業では今後、NTNを含む新領域に1,500億円超の投資を行い、2030年度には税引後のセグメント利益210億円を実現したいと考えています。

※シリーズBラウンド:サービスや商品が評価され、事業が軌道に乗りはじめた段階での資金調達ラウンド

宇宙事業の重要課題とKPI

重要課題テーマ

重要課題

(マテリアリティ)

長期 短期 KPI・実績
長期目標(2030年にありたい姿) 短期達成目標 2021年度実績
レジリエントな放送・ 通信インフラの構築 情報格差の解消 あらゆるエリア・環境への放送・通信インフラの 提供 どんなときも、地球上のあらゆる「つながりを求めるもの」にコネクティビティを与え、信頼性の高いサービスを絶え間なく提供する 災害に強い放送・通信インフラ整備とエリア拡大により、 どんなときも、どこにいても地球上のあらゆる「つながりを 求めるもの」にコネクテ ィビティを与える 当社衛星フリートの利用帯域を、前年度末比で拡大する 衛星フリート利用帯域:前年比+51%
災害に強いレジリエントな放送・通信インフラの提供を通じたBCPおよび救援・復興支援 当社衛星フリートの利用帯域を、前年度末比で拡大する 衛星フリート利用帯域:前年比+51%
技術イノベーションを踏まえた衛星通信サービス の高信頼性・高持続性に向けた取り組み 衛星事業者の垣根を越えて、予備衛星や管制局の共有 または相互貸借するパートナーシップを構築することにより、 サービスの信頼性を向上する 重大なサービス断を毎年ゼロ件にする

重大なサービス断数:1件発生

※継続時間:約6時間、影響範囲:日本全国および東南アジア

脱炭素社会と 循環型経済の実現に 向けた環境への寄与 衛星を利用したCO2削減の支援 再生可能エネルギー発電・供給への寄与を拡大する 太陽光発電出力予測システムユーザー企業による再生可能エネルギーの発電量を拡大させる 電力中央研究所との共同で気象衛星画像と地上からの天球画像のハイブリッド方式によるリアルタイム日射量予測システムを構築し2022年度以降の実用化を目指す
チャレナジー案件を通じた再生可能エネルギーの供給を拡大させる チャレナジー案件の件数:フィリピンにおいて同社製マグナス式風車の運用を2022年6月に開始。 当該風力発電を使用した電力による衛星インターネットサービスも開始予定
宇宙環境の改善 宇宙ごみ削減への取り組み 宇宙ごみ除去サービスを事業として確立させる 宇宙ごみ除去サービスの事業化を実現する 宇宙ごみ除去サービス事業化の進捗状況:事業化に向け、レーザー技術の開発・ミッション解析設計を 進め、市場調査等を実施
環境や社会に寄与する イノベーションの推進 リモートセンシングの開発・推進 リモートセンシングを活用した事業を進化させ、環境保全や社会の発展に寄与する リモートセンシング案件を拡大する

リモートセンシングの具体的な活用事例:

  • 斜面モニタリング
    SARデータを活用した沈下/隆起の時系列解析をパートナー企業と土砂災害警戒区域を対象として実施
  • ため池モニタリング
    ため池内のゴミを高分解能光学画像で撮像し、InSAR解析を実施(2022年5月で最終報告実施)

事例1 衛星通信の特性を活かしたデジタルデバイドの解消と災害時の利用

衛星通信は、その広域性と同報性、柔軟性により、電力と電波を受信できるアンテナがあれば、地上回線を敷設できない山間部や離島等の島しょ地域等でも、インターネットを含む通信が可能となります。これにより不便が快適へと変わり、地域間の情報格差を縮小することができます。国内のみならず、後発開発途上国においては通信環境の拡充が教育や経済、技術等の格差解消にも寄与します。

また、自然災害発生時等には地上の災害の影響を受けないため、可搬型地球局や移動車載局等により被災地でも携帯電話や人々のインターネット通信が可能となります。さらに、復旧・復興フェーズでの災害医療等においても耐災害性を活かし、災害医療現場等で活用されます。

スカパーJSAT(株)は、「国土強靱化貢献団体の認証に関するガイドライン」(2016年2月、内閣官房国土強靱化推進室)に基づき、一般社団法人レジリエンス・ジャパン推進協議会よりレジリエンス認証(事業継続)の認定を受けています。

事例2 東南アジアや太平洋島しょ国に、衛星通信×風力発電サービスの提供

「台風発電」で知られる(株)チャレナジーとのパートナーシップのもと、電力・通信インフラが共に脆弱な東南アジアや太平洋の島しょ国といった世界のデバイド地域において、安定した風力発電と衛星通信を組み合わせたサービスの事業化を目指した協力活動を行ってきました。

(株)チャレナジーが開発した「垂直軸型マグナス式風力発電機」は、一般的なプロペラ風車で生じ得る騒音やバードストライクがない点で環境懸念が小さく、また好天下でも台風レベルの強風・乱流下でも安定した発電ができるという高い環境柔軟性があります。衛星通信は離島・山間部等のデジタルデバイド地域への高度な通信サービスの提供や、大規模災害後の災害復興通信を強みとしており、高額で環境負荷が大きく、ディーゼル式の不安定な電力インフラを利用していた離島・山間部等に住む人々に、電力と通信による文化的な暮らしをお届けできる世界初の技術として期待されています。

  • 垂直軸型マグナス式風力発電機

    垂直軸型マグナス式風力発電機


この度、導入第1号として株式会社アイ・ピー・エスの連結子会社であるInfiniVAN, Inc.を通じて、フィリピン国内で提供を開始しました。

フィリピンの農村地帯や島しょ部には、光ファイバー等の高速通信網が未整備なエリアが多く存在しています。新型コロナウイルスの感染拡大を機にオンライン授業やテレワークが普及するのにともない、ブロードバンド環境を速やかに設置し利用開始できる衛星インターネット接続サービスの需要も増加しています。これまで、InfiniVAN, Inc.はフィリピンの都市部を皮切りに大容量インターネットサービスのための基幹通信回線網を拡大してきましたが、スカパーJSATが提供する衛星インターネット接続サービスがサービスラインアップに加わることで、携帯基地局の建設等の大規模な設備導入を行わずに、都市部と地方の広域で高速インターネット需要に応えることができるようになります。

「つなぐ」から社会問題解決へ

茂成 奈央

スカパーJSAT株式会社
宇宙事業部門
グローバル事業本部
モバイル事業部長

モバイル事業部では、飛行機や船舶といった移動体向けに衛星通信サービスを提供しています。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で航空機向けのインターネット接続回線の需要が落ち込んだ時期もありましたが、最近は特に国内線において著しい回復傾向にあります。機 内Wi-Fiをご利用になった経験をお持ちの方も多いと思いますが、最近は個人のスマホやタブレットを接続して機内コンテンツやインターネットを利用される方が増えています。スカパーJSAT(株)では、今後の需要増加に応えるために、すでにHTS衛星JCSAT-1Cの提供を開始、2025年度にはフルデジタル衛星Superbird-9がサービス開始予定であり、また地上設備も増強してさらなるお客さまのニーズに応えていきます。

船舶向けにおいては既存のOceanBB plusサービスに加え、2022年1月に新たにJSATMarineサービスを開始しました。利用衛星の全てを当社衛星のみで構成しているため、品質面、セキュリティ面においてハイレベルなサービスをリーズナブルな価格でご提供できるようになりました。

また、昨年度に公益財団法人 日本財団が実施する無人運航船プロジェクト MEGURI2040における「無人運航船の実証実験にかかる技術開発共同プログラム」に参加し、衛星通信のプロフェッショナルとして衛星通信回線の提供、データ制御システムの開発に携わりました。無人運航には陸-船間をつなぐ通信が不可欠ですが、通信手段の1つとしての衛星通信が有効であることを確認し、無人運航実証実験の成功に貢献しました。

日本の内航海運においては、船員の5割が50歳以上という高齢化をはじめ、若年船員の確保、労務管理等が課題になっています。常時接続可能な衛星通信があれば、船員向け福利厚生の拡充、オンラインでの労務管理、運航管理の効率化、船舶等の位置情報把握による海難事故防止、IoTデータ活用による積み荷管理等が可能となり、内航海運が抱えている問題解決につながると考えています。

インターネットがつながらなかった飛行機や船を「つなぐ」役目から、社会問題解決に寄与する役割を担うべく、お客さまやパートナー企業の皆さまと共にこれからも全力で進んでまいります。