社長メッセージ

2030年に向けた成長投資を着実に実行し、「“変革”による価値の創出」に取り組みます。

代表取締役社長

米倉栄一

スカパーJSATを作り直す

私の最大の使命は、当社グループのビジネスモデルを持続的なものに作り直すことです。衛星通信を中核とする創業時のビジネスモデルは、外部環境の激変により大転換を迫られていますが、将来を展望した時、幸いにも衛星通信の用途が大幅に拡大し、当社がこれまで積み上げてきた資産価値はむしろ高まっていると思っています。

これまでとは異なり、宇宙事業では、日本で唯一民間企業として衛星を運営できる会社として、地球観測など衛星通信以外のところにも目を向けて宇宙を使えるノウハウを発揮することが重要であると考えています。一方、メディア事業は、放送サービスは成長ドライバーにはならないものの、インフラとしてなくなりはしないと考えています。競合の乱立で加入件数が漸減状況にありますが、未だ280万のユーザーに支持されており、コストコントロールと収益源の多角化によって安定収益を確保できると見ています。また、シナジーとして衛星通信の収益にも寄与しており、ローコストで運営できる放送・配信プラットフォームに変えていく取り組みを推進します。

昨年、2030年に向けたビジョンを示し、2,000億円以上の成長投資を決断しました。長期ビジョンに向け、当社は新たに「“変革”による価値の創出」を経営戦略として掲げ、宇宙事業とメディア事業の双方において、「新領域事業の展開」と「既存事業の収益性強化」を図るために、「人的資本強化」「経営基盤拡充」を重点課題として取り組むこととしました。物的資本と人的資本の価値を最大限に引き出し、社会のお役に立ちながら持続的に利益を創出できる企業へと“変革”していきます。

2030年に向けた進捗

2022年度の純利益は前年度に比べ8%増え、想定を上回りました。宇宙事業が成長のけん引役となっていますが、加入件数の減少が続いているメディア事業もコストコントロールによって連結で増益を達成しました。こうした中、2030年度に向け、新領域への投資として、宇宙事業に1,500億円以上、メディア事業に500億円以上の成長投資を逐次実行しています。

2022年度は、宇宙事業ではビジネスインテリジェンス分野における取り組みとして、衛星から得られるデータを活用した情報サービスの開発を加速しました。また、「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」構想の実現に向け、NTTと設立した(株)Space Compass(以下、Space Compass)が活動を開始しました。メディア事業では、コスト構造を見直しながら、BtoB向けの事業展開にも注力し、さらに手応えを感じています。2022年度は、2030年に描く当社のビジョンが口先だけではないことを、多少なりともお示しすることができたのではないかと思っています。

経営戦略

宇宙事業

宇宙空間で展開されているビジネスの市場には、通信、測位、リモートセンシング(地球観測)がありますが、いずれの分野でも今後益々大きな成長が期待できます。また、そのような未来社会では、フィジカル空間とサイバー空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会課題を解決していくことが重要になります。

30年以上にわたり培ってきた宇宙・衛星事業の経験を活かし、非地上系ネットワークである「Universal NTN」や、「光データ中継」、「ビジネスインテリジェンス」といった分野への積極的な投資を行い、2030年にセグメント利益(純利益)で210億円を目指します。

既存事業の収益性強化

既存の衛星通信ビジネスにおいては、後継衛星を打ち上げる際に、ビームや帯域に可変性を持たせたデジタルペイロードを採用するなど、新技術を積極的に取り入れ、お客さまの多様なニーズに柔軟に対応していきます。また、地上局設備を活用したサービスなど付加価値提案を行いながら、既存契約の長期化を促し、顧客基盤をより安定的なものにしていきます。

航空機・船舶でのインターネット利用などの成長市場に対しては、運用中の2機のHTS(Horizons3e、JCSAT-1C)に加え、2027年上期に運用開始予定のフルデジタル衛星(Superbird-9)を活用し、高速・大容量通信サービスの提供を拡大していきます。また2023年8月、米INTELSAT社との共同保有衛星としては5機目となるHorizons-4(Horizons-1の後継機)の打ち上げに成功しました。グローバルプレイヤーとのアライアンスにより、衛星カバレッジとキャパシティを広げつつ、海外での営業展開をさらに強化します。

新領域事業の展開

「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」構想は大きく2つの目的があります。1つは、HAPSと静止衛星・非静止衛星を組み合わせた通信ネットワークを構築し、未来社会が求める通信要件に対応すること。もう1つは、光通信やコンピューティング技術を駆使したデータセンタを宇宙空間に構築し、宇宙から収集する地球規模のデータを最大限に活用することです。Space Compassでは、2024年度の宇宙データセンタ事業、2025年度の宇宙RAN事業サービス開始に向けた取り組みを進めています。宇宙データセンタ事業の実現に向けては、既に米Skyloom Global社と、光データ中継衛星の打 ち上げを目指し、共同事業契約を締結しています。また、(株)QPS研究所への出資・協業により、低軌道の小型SAR※1衛星コンステレーションを活用した事業展開にも注力するとともに、当社独自の取り組みとして、「LIANA※2」をはじめ、衛星から得られる画像や位置情報などさまざまなデータを活用した情報サービスも次々と具現化させています。これらにより、宇宙インフラ企業として経済的価値・社会的価値ともに高め、同時に新領域事業の可能性を大きく広げていきます。

加えて、国際情勢の変化を受け、安全保障分野における宇宙利用の重要性が高まっているため、官との協力体制を強化し、これまで培った宇宙ビジネスの知見と実績を安全保障分野にも活かしていくことが重要です。当社としても、衛星通信やビジネスインテリジェンス分野の他にも、宇宙状況把握(SSA)等のサービス提案を積極的に行っていきます。さらに、2023年3月に開催された「宇宙に関する包括的日米対話」に、当社はSpace Compassと共に参加しました。長年にわたり、米政府・米企業と関係性を築いてきた当社は、日米の宇宙アセットの共同活用などにおいても、安全保障分野でお役に立てるのではないかと考えています。

  1. 地表にマイクロ波を照射し、反射して返ってきた信号を分析することで地表面の情報を得るレーダーで、雲や噴煙を透過するため昼夜を問わず観測することができる
  2. Land-deformation and Infrastructure ANAlysis:SAR画像解析によって地上の斜面やインフラの変動をモニタリングするサービス

メディア事業

メディア事業を取り巻く環境は、資金力の豊富な動画配信サービス企業とのコンテンツ・顧客争奪戦が苛烈を極め、合従連衡の動きも活発化している中で、放送事業の加入者数がいつ底打ちするのかを見通せない状況にあります。ただし、当社が目指しているのは、放送・配信のプラットフォームであり、そのことをわきまえてコストをコントロールし、筋肉質に改善する一方で、事業変革に不可欠なものに投資し、2030年にセグメント利益(純利益)で50億円を目指します。

既存事業の収益性強化

放送・配信事業は、昨年に続きブンデスリーガジャパンツアーを開催するなどリアルサービスの充実や、放送契約者が無料で視聴可能な「スカパー! 番組配信」との合わせ技で加入者の満足度向上に努めます。また、コールセンターに関しては、すでに通販会社等のBtoC企業から業務を受託していますが、スカパー東京メディアセンターも内部に閉じることなく、メディアソリューション事業としてアセットを外部に開放することで収益源を多角化し、コストに見合う収益構造に変えていきます。加えて、採算性を意識した上でコストをかけるべきこととそうでないことを精査し、一つ一つ丁寧に蛇口を締めるかどうかの決断をしていきます。

一方で、光回線による再送信事業(FTTH)は右肩上がりとなっており、引き続き提供エリア拡大にともない接続世帯数を増やしていきます。さらに、新たにケーブルテレビ事業者の課題を解決する連携サービスを開始し、多くの引き合いをいただいており、こちらも伸ばしていきます。

新領域事業の展開

メディア事業の新規領域は、コネクテッドTVに接続するドングルを自社開発しているところです。これにより無料・広告付き動画配信から定額式やレンタル式など多様なVODサービスを提供できる広告配信プラットフォームを構築します。 メディア事業ではこのように、抜本的なコスト構造改革と並行して、放送と配信の融合したハイブリッドプラットフォームを進化させ、コンテンツを視聴する側だけでなく、コンテンツを配信する側からも選ばれるための投資を行います。

人的資本強化

現在は、AIをはじめとする技術革新によって、従来の常識が一瞬にして通用しなくなる“ゲームチェンジ”の時代です。このような時代に一番必要なのは、未来に起きることを柔軟に考え、実際にアクションを起こせる人財です。当社の未来は、そのような人財を育てることにかかっています。

当社は「“変革”による価値の創出」を目指していますが、これは「変革の原動力となる人と組織の活性化」がなければ実現しません。そこで、これまでの延長線上にない変革を求め、若手をどんどん抜擢する人事制度に変えました。アウトプットに責任を持って行動するハイパフォーマーを早期に抜擢し、変革を加速していきます。同時に、当社の未来を創る若手がモチベーション高く変革をリードしていくことを期待し、初任給の引き上げと賃上げを実施しました。また、自発的に受講できる研修プログラムの充実も図っています。もちろん、多様性も重視し、女性や中途採用者の活躍を促進しています。

私自身は、現場の社員が今何を思い、どんな未来を想像しているのか直接確かめようと、チーム長クラスの社員とのコミュニケーションに時間を割くようにしています。実際、優秀な人財が埋もれていることにも気付きました。そのような人財を引き上げて人的資本を強化していくことが非常に重要であると考えています。

経営基盤拡充

経営基盤の拡充では、新たに宇宙法の専門家である青木氏と、防衛省出身で安全保障戦略の専門家である豊田氏を社外取締役として招聘しました。お2人には客観的立場から特に宇宙事業の指導・監督・アドバイスをお願いし、水先案内人になっていただけるものと期待しています。

加えて、サイバーセキュリティ対策やDX(デジタルトランスフォーメーション)、サステナビリティへの取り組みを重点的に進めていきます。2023年6月にはESG指数「FTSE Blossom Japan SectorRelative Index」の構成銘柄に初めて採用されました。引き続き、環境面での温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みをはじめとして、ESGも意識しながら経営基盤を拡充してまいります。

ステークホルダーの皆さまへ

現在、当社のPBRは1倍を割り込んでいます。この状況を打破し、株価を持続的に向上させていくには、株主・投資家の皆さまとの建設的な対話を深めながら、当社の成長戦略をご理解いただくことが第一と考えています。そのために、計画したキャピタルアロケーションの実行状況も含め、2030年ビジョンに向けた姿を形として見えるものにし、それを説明していきます。

昨年度公表した、5年間で400億円の株主還元方針に沿って、2022年度は年間配当額を20円に増額し、2023年度もこの配当水準を維持しています。また、自社株買いも機動的に実施していきます。

当社の2030年に向けた“変革”というのは、詰まるところ、衛星1機に200~400億円程度を投資するビジネスが、競合や技術革新などの大きな変化に対応し、ちゃんと収益を生み出し続けられるようにすることです。それゆえ、マネジメント層には現状に決して安住することなく、常に5年~10年先を想定して、今打つべき手を考えることを求めています。われわれ経営陣は、当社の将来についても責任があることを十分に認識し、危機感と緊張感の中で“変革”に臨んでいます。事業会社の執行役員に対して株式で支給する報酬の仕組みも配分割合を引き上げる等、株主様と同じ目線を持ち、企業価値向上への意識を高めるようにしています。

現在は成長投資の最中にあり、2023年度の業績は2022年度レベルにとどまる見通しですが、ここまでお話してきた“変革”をやり遂げ、2030年に当期純利益250億円超を実現したいと思います。2023年度はよりスピード感をもって“変革”を具現化していきますので、ステークホルダーの皆さまには、引き続き、時に厳しいご意見をいただき、今後ともご支援賜りますようお願い申し上げます。