SWOT
中長期の事業戦略
メディア事業は、人と人、企業、社会をつなぐプラットフォームとして、多様で創造性豊かな社会の実現に貢献するため、ファンの体験を起点として、その先の体験領域を拡張させてまいります。
厳しい競争にさらされ、衛星放送事業の加入件数が漸減傾向にあります。一方で毎年度、着実に契約件数を伸ばしているFTTH事業をより大きくしていくとともに、事業の多角化・収益の多様化を推進すべく、新領域事業に500億円超の集中投資を実行していく計画です。コネクテッドTV事業では、有料・無料のさまざまな形式の動画配信サービスを大画面テレビで視聴できる「ドングル」(端末)の開発を進めています。
また、同じくコネクテッドTV事業として広告プラットフォームの構築に取り組むため、2021年9月に出資した(株)フリークアウト・ホールディングスとの業務提携を通じて、個人の嗜好や行動のデータに基づく新たな広告手法を用いた事 業創出を目指します。
メディアソリューション事業では、当社が保有する有形・無形のアセットを活用し、企業の課題解決となるソリューショ ン事業を展開しています。動画配信支援サービス「メディアHUBクラウド」は、コンテンツプロバイダー等が運用負荷を 少なく配信事業を展開できるよう、当社がHUBとなってサポートする仕組みです。多チャンネル放送事業で積み上げてきた実績を活かして、コンテンツプロバイダー、サービスプロバイダーはもちろんのこと、一般企業へのアプローチも含めて、新たな収益源として、数年後にはメディアソリューション事業全体で10億円規模の収益確保を目指したいと考えています。
リアルな体験への取り組みでは、さまざまなコンテンツのファンの皆さまに、ファン視点での世界観をお楽しみいただくため、ファンミーティング、イベント、グッズ販売、ツアー施策、といったリアルな体験を提供します。ドイツ・ブンデスリーガとは、2025年シーズンまでの放送・配信権だけでなく、パートナーシップ契約の締結により、共同でマーケティングを行っています。昨年に続き、今年の7月にはブンデスリーガのクラブを日本に招致してJリーグクラブとの親善試合を開催し、日本のサッカーファンに感動体験を届けました。その他、ファン・マーケティングにおけるメタバースの活用や、Web3の中核要素であるブロックチェーン関連技術を活用してクリエイターエコノミー等の新しい市場開拓を目的に、2022年7月には(株)FrameOOにも出資を行っています。
こうした事業戦略により、基盤とする既存事業と新領域と合わせて、2030年度にはセグメント利益50億円を達成したいと考えています。
メディア事業の重要課題とKPI
重要課題テーマ |
重要課題 (マテリアリティ) |
長期 | 短期 | KPI・実績 | |
長期目標(2030年にありたい姿) | 短期達成目標 | 2022年度実績 | |||
レジリエントな放送・ 通信インフラの構築 情報格差の解消 | あらゆるエリア・環境への放送・通信インフラの提供 | どんなときも、地球上のあらゆる「つながりを求めるもの」にコネクティビティを与え、信頼性の高いサービスを絶え間なく提供する | 災害に強い放送・通信インフラ整備とエリア拡大により、 どんなときも、どこにいても地球上のあらゆる「つながりを 求めるもの」にコネクテ ィビティを与える |
衛星に加え、光ファイバー経由の放送サービス提供可能 世帯を2023年までに、3,500万世帯に拡大する |
放送サービス提供可能世帯数:約4,280万世帯(2022年度末)
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災害に強いレジリエントな放送・通信インフラの提供を通じたBCPおよび救援・復興支援 | 2023年度に実施予定の東京メディアセンターにおける大規模修繕の実行計画を策定 | ||||
多様なコンテンツによる生活の豊かさの向上 | 多様なコンテンツを、放送や配信、さまざまな顧客接点で提供 | さまざまなコンテンツやサービスを取り揃え、人々の価値観を広げる統合メディアプラットフォームを実現する | 人々とコンテンツの出会いを促進し、観たいコンテンツを簡単に観ることができる世界をつくる | 衛星放送だけでなく、配信サービスや双方向機能をより 活用し、人々がコンテンツを楽しめる機会を増やす |
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多様なコンテンツホルダーの参入を支援し、 コンテンツ流通を促進 | コンテンツホルダー(個人・企業)がコンテンツビジネスに手軽に参入できる世界をつくる | コンテンツ提供者にスタジオ機能、コンテンツの伝送、 配信機能等を統合的に提供できる仕組みをつくる | コンテンツ提供者向けメディアソリューションサービス「メディアHUBクラウド」の利用拡大を推進 | ||
暴力・人権・差別等のコンテンツへの適切な対応 | 映像コンテンツ提供の倫理ガイドラインを確立し、当社サービスの基準とする | 当社提供コンテンツの細やかで適切なガイドラインを策 定し、時代の変化に合わせ随時改定を行う |
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環境や社会に寄与する イノベーションの推進 | 放送・通信の高度化・技術開発による新し い価値の提供 |
新たな映像サービス、新たな顧客サービスを提供し続け、社会を発展させる | 顧客価値を高める新たなサービスを毎年投入し続ける | スカパーポイントプログラム(2023年5月23日開始予定)導入に向けた取り組みを実施 | |
地域・コミュニティの発展 | 放送枠・番組・CM等の特徴を活かした社 会への貢献 |
自社のインフラを活用した社会貢献を通じ、Space for your Smileを実現する | スカパー!のアセットを活用した社会貢献施策を実施する | 地域活性化促進を目的に、福岡ソフトバンクホークスと連携した中学生の野球大会の生中継、女子野球九州大会決勝の生中継を無料放送・配信 |
事例1 レジリエントな放送・通信インフラの構築、情報格差の解消
FTTH事業によるデジタルデバイド解消̶光回線で4K8K衛星放送の圧倒的なリアルをお届け
スカパーJSATの光回線(FTTH)を使った再送信サービス、光回線テレビは、電波が届かないエリアやアンテナが設置で きない場所にも、インターネット回線を通じて地上波デジタル、BS、CSに加えて4K8K衛星放送を提供しています。提供エリアは、NTTが提供するフレッツテレビの拡大と合わせて徐々に広がっており、2023年3月末時点で提供エリアは37都道府県、提供可能世帯数は約4,280万世帯(世帯カバー率は約76%)に達しています。
フレッツや携帯キャリア等の光回線とのコラボによる戸建サービスに加え、戸建分譲地向けに、全戸一括インターネット 接続およびテレビ視聴サービス「NiSUMU CONNECT(ニスム コネクト)×光回線テレビ」を開発し、積水化学工業(株)が展開する「スマートハイムシティ流山富士見台」で提供を開始しています。また、マンションISP業界No.1の(株)つなぐネットコミュニケーションズと連携した大型集合住宅の受注も促進し、光回線経由のスカパー!加入者拡大に注力しています。
ケーブルテレビ業界の課題解決に向け、パススルー方式による多チャンネルサービスの提供を開始
スカパーJSATは、ケーブルテレビ事業者に対し、衛星経由で放送波を配信するとともに、視聴者ごとの各チャンネルの視 聴鍵の開け閉め、いわゆる視聴制御機能を提供するサービスを開始しました。これにより、STB(セットトップボックス)を設置しなくても、テレビやレコーダーの付属リモコンだけで、視聴や録画が可能になります。また、ケーブルテレ ビ事業者にとっても視聴者宅のSTB交換や設備等の更新費用の負担も軽減されます。このパススルー方式によるサービスは業界初の取り組みで、同様の課題を抱えるケーブルテレビから多数の引き合いをいただいています。
事例2 多様なコンテンツによる生活の豊かさの向上
ブンデスリーガジャパンツアーなど、リアルサービスの充実でファン体験を拡張
スカパー!サービスでは、放送・配信にとどまらず、リアルサービスや最新の技術を用いた疑似体験コンテンツを充実させ、ファン体験の拡張を図り、多様なコンテンツの楽しみ方を提案しています。
ブンデスリーガとは、放送・配信に加え、日本での共同マーケティングを行うパートナーシップ契約を締結しており、その一環として昨年に引き続き、2023年7月に「スカパー! ブンデスリーガジャパンツアー2023」を主催し、FCバイエルン・ミュンヘンとJリーグの川崎フロンターレとの親善試合を実現いたしました。
ブンデスリーガの迫力あるプレーをお届けするとともに、スカパー! グッズモールでブンデスリーガオリジナルグッズ販売など、視聴体験からリアルな体験を提供しました。
一方で、プロ野球・広島東洋カープの主催試合では、バーチャル空間で観戦しながらファン同士の交流やイベントが楽しめる「カープ県」を開設し、カープの本拠地であるマツダスタジアムなどのバーチャル空間内でアバターを移動させながら、野球観戦だけでなく、スペシャルゲストと直接交流できるチャット企画など、ファン同士の親交を深められるコンテンツも提供しています。その他にも、スポーツ選手やアイドルとファンが握手を疑似体験できる技術や、SWCCグループの空間共有技術を活用し、事前に撮影したアイドルと来場したファンが交流を疑似体験できるコンテンツなども開発しています。
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バーチャル空間で広島東洋カープを応援する「カープ県」を開設
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福岡ソフトバンクホークスの元選手・明石健志さんと、ファンによる遠隔でのVR握手会を実施
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MeseMoa.のライブイベントで、ファンが同じ空間内で交流を疑似体験
当社のアセットやノウハウでメディアの新しい課題に応えていく

仙澤 隆
スカパーJSAT株式会社
執行役員
メディア事業部門
メディア技術本部長
インターネット環境とデバイスの普及を背景に、有料無料を問わず、子供から大人まで動画配信サービスを楽しむ時代になりました。巨大資本をもって大胆なコンテンツ獲得やプロモーションを行うプラットフォーマーの台頭は、コンテンツ、加入者獲得の両面で当社の衛星放送事業に影響を与えていますが、必ずしもマイナス面ばかりではありません。当社には、1996年に日本初のデジタル衛星放送を開始して以降、26年にわたり数多くのチャンネル放送を高精度かつ安定的に送り出してきた実績があります。その拠点がスカパー東京メディアセンターです。ここに集積された数多くの動画を、衛星放送だけでなく、インターネット動画配信サービス(スカパー! 番組配信、SPOOX)にも提供しています。この機能とノウハウを活用して、既存ビジネスの根幹を支えながら、インターネット配信時代の新たな課題を解決するメディアソリューション事業を提供し、新たな収益を生んでいます。
メディアソリューション事業とは、コンテンツホルダー、コンテンツプロバイダー、配信プラットフォームなどコンテンツ流通の課題を当社のアセットやノウハウを活用して解決する企業様向けの事業です。
例えば、スカパー東京メディアセンターの設備や技術を活用し、放送やインターネット配信をおこなうだけでなく、番組やイベントの制作、国内外の衛星や光回線を利用した国内外のライブ中継の集配信、コンテンツを用途にあわせて加工するローカライズ対応、多種多様なプラットフォームにコンテンツを届けるためのフォーマット変換など、コンテンツを生み出し、価値を高め、高い品質でユーザーにお届けするための、さまざまなサービスを提供しています。今後も企業のお客さまのニーズを見極めながら、事業開発を続けて参ります。
当社の重要課題(マテリアリティ)のひとつである「多様なコンテンツによる生活の豊かさの向上」の達成に向けては、「多様なコンテンツを、放送や配信、さまざまな顧客接点で提供」すること、「多様なコンテンツホルダーの参入を支援し、コンテンツ流通を促進」することを掲げています。今後配信ビジネスがますます発展していけば、個人や一般企業など、コンテンツを発信するコンテンツホルダーの多様性も増し、課題も多様化していくと考えます。当社の設備や技術、ノウハウを持って多様化する課題に向き合い、人々の生活が豊かになる多様なコンテンツの提供に貢献します。